伝説に曰く、
始祖ブリミルが使い魔は4つの名を持つ。
神の左手、ガンダールヴ
神の右手、ヴィンダールヴ
神の頭脳、ミョズニトニルン
そして記すことさえ憚られる最後の一体
これはそんな、
記すことさえ憚られる使い魔を望んだ、
あるルイズのお話である。
ゼロの使い魔×東方Project SS
記すことさえ憚られる東方から来た使い魔たち
1. あややややや
どこかの世界のどこかの国のどこかの学院。
それらの詳細はさして重要でないので割愛するが、
その学院では春の使い魔召喚の儀式が行われていた。
桃色がかったブロンドという世にも奇妙な髪の色をした少女が、
うんたらかんたらとスペルを唱え、
使い魔を召喚せんと意気込んでいた。
魔法を発動させる手ごたえらしきものを珍しいことに感じた彼女は、
えいやっ、と期待と気合を込めて杖を振り下ろした。
次の瞬間、
爆発が起きた。
どかん、と気のない音がしたと思ったら、
もうもうと煙が立ち込めた。
ルイズは確信を持って煙の向こうを見つめた。
・・・が。
「誰もいない・・・?」
煙が晴れてみると誰も居なかった。
上を見ても居ない。
右を見ても居ない。
左を見ても居ない。
やばい。
泣きそうだ。
だが、ざわざわと周りの様子が騒がしい。
他の生徒であるならともかく、
ルイズが召喚に失敗したからといって騒ぎになるわけがない。
逆ならあるかもしれないが。
騒ぎの原因はルイズの真下にあった。
カシャッ!
何とも聞いたことのない不思議な音とまぶしい光がルイズの真下から溢れた。
ルイズがぎょっとして下を覗き込むと、
・・・彼女のスカートから、身体が生えていた。
恐る恐るスカートを持ち上げると、
そこには不可思議なレンズのついた道具を、
ルイズの下着に向けて仰ぎ持った少女の姿があった。
「きゃあああああっ!!」
可愛らしい悲鳴を上げたルイズの右足が覗き少女の持つ道具に向けて振るわれた。
何と無くその道具は良くないもののような気がしたのだ。
貴族というより乙女の感で。
「あやっ!?
何のこれしき、記者根性――っ!」
だがルイズの必殺の右は道具を庇ってぶち当たりにいった、
少女自身の顔面に阻まれその道具までは届かなかった。
「げふっ!?
・・・これが、ジャーナリストの真髄っ」
まともにルイズの蹴りをくらった少女は呆気無く気絶してしまい、
きゅう、と倒れてしまった。
ルイズはこれが私の使い魔なの・・・?
冗談でしょっ!?
と呆然とするしかなかったのだった。
最初はひどく何かの間違いであれっ!
と願っていたルイズであったが、
彼女は平民でなく、天狗と呼ばれる亜人であることを教えてもらうと、
まぁいいかと言う気分になっていた。
彼女が自分たちには及びもつかぬ凄まじい力を持っていることも
何と無く分かってしまったし。
だから、今、ギーシュと決闘を交わそうとする目の前の使い魔にこう言ってやる。
「文、手加減してやんなさいよ」
「あややややっ、
そうですね、さ、ギーシュさん、
手加減してあげますから本気で掛かって来て下さい。
早々に倒して、三角関係の泥沼化について取材させてもらいますよっ!!」
「あの、僕、決闘を辞退させていただきたいんですが・・・」
「行きますよっ、
風神『無双風神』っ!!!」
「て、手加減してそれなのかいーーーっ!?
しゃ、しゃしゃ、しゃめいまるーーーーーーっ!!!」
ギーシュの絶叫が響き渡る、トリステイン魔法学院は今日も平和です。
2.\だぜ/
今日も何処かの世界の何処かの魔法学院でルイズは召喚の儀式を行っていた。
えいやっ、と杖を振り下ろす。
ぽんっ!!!
「・・・は?」
ルイズの口から何がなんだか分からない、
と言った類のため息がこぼれた。
何しろ、ルイズが杖を振り下ろした先では手のひらサイズほどの星がきらきらと瞬き、
幻想的な世界を作り上げていたのだ。
その中心はもうもうと視界を遮る煙によって見えないが、
誰か居るっぽいのは間違いない。
「ふっ、モンモランシーのためにこの星を捕まえてプレゼ・・・あびぃっ!!」
不用意に星に触れたアホが吹き飛んだ。
・・・爆弾っ!?
「あー、すまないぜ。
ちと、初めての体験なんで盛り上げようと思ったんだが、
いきなり触るバカがいるとは思わなかったんだぜ?」
煙の晴れた向こう側には、
真っ黒のマントと大きな帽子を被り、箒を持った古のスタイルの魔女が居た。
・・・ていうか、魔女の割りにどうしてあんなにサバサバとしてるのかしら。
「おい、ルイズ!
君のところの使い魔、どうにかしてもらえるかいっ!」
「そうだそうだ、ボクの可愛いモンモランシーを返してもらおう!」
「私の恋人を君のところの使い魔に取られたぞっ、どうしてくれるっ!!」
今日もルイズの部屋はむさくるしい男共の闖入、もとい苦情が舞い込んでいた。
召喚された彼女は使い魔になることも
「まぁ、構わないぜ」
とあっさりとオーケーしてくれたのだが、一つだけ条件をつけた。
それは学生寮の屋根裏を改造して自室としたいというものだったので、
ルイズもまぁいいやと、こちらもあっさりとオーケーしたのであった。
だが・・・
「まさかこんなことになるとはね・・・」
ルイズがため息を吐くと、また新しい人物が三人、ルイズの部屋に怒鳴り込んできた。
どうせまた一緒だろう。
決まってる。
一人目は禿の教師。
「ミス・ヴァリエールっ!
君のところの使い魔に本を勝手に持ち出されたんだがっ!?」
今度は青い髪の同級生だ。
「・・・私の蔵書、返して」
最後は・・・学院長?
「あー、そのな、ミス・ロングビルが君の使い魔に夢中になってしまってな、
・・・返してもらえん?」
頭を抱える。
どうやら彼女はマジックアイテムや書物の収集癖があるらしく、
しかもそれは人のものでも構わないらしい。
簡単に言うと、窃盗癖がひどかった。
それからもう1つ。
何故だか学院では彼女の漢気に惚れ込む少女たちが溢れ、
彼女を取られたと言う彼氏からの苦情がもう3桁近い。
「霧雨魔理沙・・・、
あいつ、こうなるのが分かってて初めから自分の部屋用意させたわね・・・」
魔理沙の部屋は魔法で複雑に入り組んだ作りになっているらしく、
最早彼女以外は入ることさえ困難であった。
だから彼女への苦情は全部、主人である自分のところに来るのである。
ルイズのため息が途切れることのないトリステイン魔法学院は、
今日も平和です。
3.悪魔の狗
今日も今日とて杖を振るうルイズが召喚したのは・・・メイドさんでした。
貴族たち一同は、
「おいおい、手近だからって学院のメイド連れてくるなよっ」
「ていうか、ヴァリエール家のメイドだろ、さすがに?」
「いや、その辺歩いていた平民にメイド服着せたんだろ?」
一斉に囃し立てようと口を開き、
ルイズに対するメイドの、完璧な一礼を見て沈黙した。
曲がりなりにも相応の教育を受けた貴族である。
そのメイドがパーフェクトなお辞儀をしてみせたことぐらいは理解した。
挨拶をされた対象であるルイズも、
メイドに対して文句の1つも言ってやろうかという考えがすっ飛んでしまった。
瀟洒・・・そんな普段は決して使うことの無い単語が脳裏を掠めたほどである。
トリステイン魔法学院はピカピカと輝きを放っていた。
これが、ほぼ一人のメイドの手によって行われたとは誰が信じるだろうか。
いつの間にか、学院中のメイドからメイド長と呼ばれるようにさえなった彼女は、
学院のメイドたちにも自身の教えを広めんと日夜教育に励んでいた。
「うん!咲夜の淹れてくれるお茶は最高ね!」
貴族の優雅なひと時、ティータイム。
ルイズはニコニコと笑顔を浮かべながら使い魔、十六夜咲夜に賛辞の声を上げた。
彼女とて貶す必要の無い使い魔であれば、褒めることを惜しんだりはしない。
「ええ、ありがとうございますわ、お嬢様」
「・・・?
咲夜、何かいいことでもあった?」
「どうしてでしょうか?」
「いえ、何だか機嫌がよさそうだけど」
「そうですね、本日少しばかり気に入ったメイドが出来まして、
明日から彼女を本格的に教育してあげようかなと」
「それはいい事ね。
学院のメイドの質が高くなれば、私も鼻が高いわ」
「お嬢様のご期待に添えられますよう、努力いたしますわ」
「・・・と言うわけで貴女を鍛えて差し上げます」
「はぁ」
学院のメイド、シエスタは何と言っていいのか分からなかったので、
取りあえず相槌を打ってみた。
ひゅっ、と風切り音が耳元で聞こえた。
シエスタが後ろの壁を振り返って見てみると、ナイフが突き刺さっている。
「・・・へ?」
「そんな言葉遣いじゃいけません。
メイドたるもの、常に瀟洒であれ」
片手でナイフを弄りながら、にっこりと口の端を持ち上げて咲夜は言った。
だが、シエスタの目には彼女の姿は、
『お前を殺す、ナイフで刺し殺す』と語っているように見えた。
「ひ、ひぃ・・・、あのど、どうして私なんかに目を・・・?」
それでも後ずさりながら、思っていた疑問を問うてみた。
「それは貴女がきょにゅ、
・・・きょにゅうころ、
いえ、メイドとして素質があると思いましたから、育ててみたいなと思いまして」
この人今巨乳殺すって言おうとしたーーーっ!?
シエスタに向けてたまにナイフが飛び交う学院は、
おおむね平和です。
4.ごっすん
本日ルイズが召喚したのは、人形だった。
もとい、数え切れないほどたくさんの人形であった。
人形は広場に集まった人々に各々が持った剣を押し当て、
無言無表情でルイズたちに自制を促していた。
学生たちがその意図を理解し場が静まる頃、
ゆっくりと、見た目が賑やかなドレス風の衣服に身を包んだ少女が現れた。
「全く、こんな理不尽で非常識な真似を仕掛けるなんて、
命知らずにも程があるわね・・・」
そう事も無げに呟く彼女の姿は、
年頃の少女が誰しも憧れる愛らしさを兼ね備えているが、
ただ人形括りの指輪がはめられたその指の動きに、
抵抗したら八つ裂きだという意思が込められていた。
「で、私を召喚して下さった不届き者は誰?」
皆が一斉にルイズに視線を向ける。
「そこの桃色ね・・・」
ルイズの下にさらに人形がわらわらと集まってくる。
1体1体は可愛らしい人形も、こうも集まるともう不気味にしか見えない。
「でも、話ぐらいは聞いてあげるわ。
感謝することね」
ルイズ以外の皆が胸をなで下ろしたのは言うまでもない。
生徒たちを解放したアリス・マーガトロイドがルイズの話を聞き終える頃には、
召喚の儀式は終了し、
生徒たちはアリスから逃げるようにフライで次々と飛び立っていった。
アリスは自分の脅威となりうる相手がいないかを仔細に観察していたが、
全員が居なくなると、ある事実に気付いてしまった。
・・・この娘、友達居ないんだ。
もしも友達が居るなら、
例え自分のような得体の知れない相手が居ても一言ぐらいの挨拶はあるはずだ。
それすら無かったと言うことは、つまり?
待て、アリス。
何で親近感沸いてるのよ。
私は別に友達の1人ぐらい・・・居ないかもしれないけどっ!
ああ、もうっ!
「そこの桃色っ!
しょうがないからこのアリス・マーガトロイドがしばらく使い魔になってあげるわよっ!」
ルイズは今日も授業での魔法に失敗し、
キュルケにからかわれていた。
「あのツェルプストー!
ほんっと、ムカつくわーーーっ!!」
キュルケと別れてからも怒り収まらないといったルイズを、
アリスは『分かる分かる』といった風に見つめていた。
そして、アリスはそんなルイズにそっと近寄ると、
何かをぎゅっと握らせた。
「・・・何よこれ?
人形?」
ルイズの問いに、
アリスは世の中が全て晴れ渡らんとするような笑顔で答えた。
「わら人形。
ごっすん、ってすると気分晴れるわよっ」
たまにキュルケが胸を押さえてうずくまることがあるらしいけど、
トリステイン魔法学院は多分平和です。
5.巫女
もういい加減慣れた様子で、ルイズは杖を振り下ろした。
お決まりのように煙がもくもくと視界を隠した後、
そこに召喚されていたのは紅白の、
やけにめでたい感じの衣服を着込んだ女だった。
というか、腋が丸出しである。
寒くないのだろうか。
「寒くないの?」
「同情するなら酒をちょうだい」
・・・聞いた私がバカだったのだろうか。
契約をしてみると、
その女はぐうたらな上、能天気だった。
いくら言っても暖簾に腕押し、
ぬかに釘、
ほとんど働こうとはしなかった。
ただ、お茶を飲むのが好きらしく、
毎日のように淹れてくれる彼女のお茶は美味しかった。
あんまりにも使い魔が使えないものだから、
その内ルイズは考えるのを止めた。
と言った風に話が終わってしまうのではないか、
ルイズは不安になった。
ある日、博麗 霊夢は要領よく、
一応はこなしていたルイズの世話を終わらせ、
いつものように暢気にお茶を飲んでいた。
それを呆れた顔で見つめるルイズ、
それが彼女たちのいつものスタイルである。
「・・・さて、そろそろ行きましょうか」
と思ったらだ。
霊夢が突然、ルイズに呼びかけた。
無論、霊夢の言いたいことが何なのかルイズに知る由もない。
「どこに?」
「取りあえずは東かしら」
「ど、どうして?」
「異変が起こってるからよ?」
「異変なんて起こってるかどうか、分からないじゃないっ!」
「ま、適当に行けば分かるわ。
私の勘は当たるのよ」
そう霊夢はひらひらと手を振りながら、
事も無げに言ってのけた。
ルイズは半信半疑であったが、
それでも何故だか分からないが、霊夢が正しいと思った。
事実、その後異変は起こったけれど、
学院の平和は多分守られることでしょう。
6.もこ
もう熟練した魔法使いの動きで、ていっ、とルイズは杖を振り下ろした。
いつものごとく煙が出て、それが晴れ渡るとその先には・・・
「ぐ、グロ死体だーーーーっ!!」
ルイズは絶叫した。
「ぎゃーーーーっ!!」
「何コレ!焼け焦げた匂いがするーーっ!!」
「今晩もうお肉食べられないーーーっ!!」
「ゼロのルイズが死体を召喚したーーーっ!!」
「すぷらったすぷらったーーーっ!!」
「ぽまーどぽまーどっ!!」
周りも大パニックである。
年のころなら死後30秒。
身長は残った胴体と頭の一部分で70cmぐらい。
体重も残った部分だけなら20kgぐらいだろうか。
というか右手は無い。
下半身も無い。
頭も半分以上無い。
というか、残った部分も焼け焦げて、ぶすぶすと異音を放っている。
そんなどこからどうみても死体です。
本当にありがとうございました。
そこら中からばたばたと生徒が倒れる音が響いた。
死体は、見慣れていても気持ちいいものではない。
それが始めての死体でこれだ。
失神するのも当然だろう。
ルイズも引きつった笑みを浮かべ、
いつ意識を失おうかとタイミングを図っていた。
・・・が、
リザレクション!!
大気中に響いた音に仰天とする。
凄まじいまでの魔力の高まりを感じたのであった。
「か、かぐやーーーーーーっ!!!」
サスペンダーのついた衣服まで元通りな不思議ちゃん、
藤原妹紅が爆誕していた。
・・・文字通りの意味で。
彼女の背中から生えた炎の翼はごうごうと燃え盛り、
辺り一面を火の海に変えんと血気盛んに火の粉を撒き散らした。
「ぎゃーーーっ!!」
「ゼロのルイズの使い魔が暴走したぞーーっ!!
「さっきまで死んでなかったーーっ!?」
「ていうか、俺たちが死ぬーーーっ!!」
「ポマードポマードッ!!」
「あれが・・・フジヤマ・・・ヴォルケーノ・・・なんて美しい」
「ちょっと先生、浸ってないで皆を非難させるの手伝ってくださいっ!!
って言うか、なんで先生がそんな事を知ってるんですか!!」
「古い話だよ・・・」
「だから浸ってないで、手伝えはげーーーっ!?」
火の丘で生と死の狭間のマイムマイムに興じる生徒たちの絶叫が木霊する、
トリステイン魔法学院はきっと平和です。
7.H
前回の反省を踏まえたルイズは、恐る恐る杖を振り下ろしてみた。
今日も今日とて、相も変わらず薄らボンヤリと煙ったその先には!
確認しようと目をこらした瞬間、
ひたり、とルイズの頬に冷たい何かが当たった。
何だろう、と思って空を見上げると・・・
「ゆ、雪・・・?」
季節外れも甚だしい、大粒の雪がしんしんと舞い降りていた。
その異常な光景の中で、召喚した使い魔のことを思い出す。
彼女が視線を戻すとそこには、
「氷の精霊・・・?」
きらきらと輝く雪と溶け合うように、
舞い踊る小さな女の子の姿があった。
雪とステップを踏むかのように空を翔る少女の姿に思わず息が漏れる。
「だれだっ!?」
自分の声であの極上のショーを止めてしまったことに失念を覚えなくもないが、
それでもこっちが本題なのだ。
ごくり、と唾を飲み込んでから切り出した。
「私の使い魔になりなさいっ!」
「あたいはさいきょうだぞっ!!」
・・・いまいち意味が伝わらなかったのだろうか。
なんだか会話になっていない気もする。
「私と契約してちょうだいっ!」
「あたいはさいきょうだーーっ!」
「私の仲間になって!」
「あたいったらさいきょうだからな!」
・・・やっぱり会話が繋がらない。
それとも言葉が通じていないのだろうか。
うーん、まぁいいや。
契約しちゃえ。
契約をしてみて、2つ分かったことがある。
それは、
・・・私の使い魔となった妖精のチルノは、
まぁ、そのなんだ、
オブラートに包んだ言い方をすると、バカだ、と言うことだ。
そして、
「ああっ、ロビーーーーンっ!?」
「カエルのこおりづけだぞーっ!」
カエルいじめが大好きだと言うことだ。
学院には何匹かカエルの使い魔がいるのだが、
もうほとんどがチルノの餌食になっている。
今日はモンモランシーの使い魔がやられたらしい。
「決闘だーーーっ!」
「おーっ、だんまくごっこだーーっ!!」
何だか知らない内にギーシュとチルノが決闘することになったようだ。
恐らくモンモランシーのカエルがやられたことに対する仇討ちだろうが・・・。
ギーシュのヤツ、妖精に勝てると思っているのだろうか。
「いくぞーーっ、アイシクルフォール(easy)!!」
チルノの宣言により放たれた無数の氷の矢が辺り一面にばらまかれる。
ギーシュがぎょっとした表情を浮かべ、ひぃぃとなんともへなちょこな声を上げた。
だが、氷の矢は狙い?
何それ美味しいの?
とでも言いたげに、どれもこれも明後日の方向へと飛んでいってしまった。
チルノはそんなことにも気付かずに、
「くらえくらえーーっ!
あたいったらさいきょうだぞーっ!!」
なおも氷の矢を乱発する。
ギーシュもどうやら絶対に当たらないことに気付いたのか、
薔薇の造花を一振りしてワルキューレを召喚すると、
青銅の棍棒でチルノの頭をぼかりと叩いてみた。
「いたーーーーーっ!!」
きゅうと目を回してチルノは倒れた。
・・・負けたよ、おい。
ルイズの使い魔は弱いのかもしれないけれど、
学院は平和なので問題ありません。
8.山田
ハルキゲニアという地球とは異なる場所、あるいは別次元にある世界に、
魔法使いの卵たちが学ぶトリステイン魔法学院と呼ばれる場所がある。
そこでは貴族のぼんぼんの少年少女が3年で立派なメイジになれるよう、
多分優秀であろう教師たちが日夜教鞭を執っている。
そんな魔法学院で最も重要なイベントが、
学院から少し離れた広場で行われていた。
・・・春の使い魔召喚の儀式。
まだ自分の適性さえ知らぬ学生たちの岐路となるべき日。
期待と不安の中で、
自らの血と誇りを分け合うパートナーを選定する儀式。
それは既に世間で一介のメイジとして生きているものにすら平等である。
『雪風』と呼ばれる少女も
『微熱』と呼ばれる少女も
皆、自分が家柄も何も関係なく客観的に評価される今日というこの日を、
期待を抱いて、
そして不安を抱いて迎えていた。
そんな生徒たちの中でも、
一際不安に怯えている生徒が居た。
彼女は魔法をまともに使うことが出来ず、
『ゼロ』という蔑称でさえ半ば公然と使われるほどだった。
今日という日に、全てを賭けてきた少女は、
祈るような気持ちで召喚の儀式へと望む。
緊張でからからに乾いた喉と乾燥した唇で、
スペルを上手く唱えられないのではないか。
そんな言い訳がましい弱気が彼女の胸を掠めた。
頭を大きく振ってそんな弱い自分を追い払う。
私は誰だ。
私はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールだ。
私は貴族だ。
・・・出来るはずだ。
とうとう彼女の順番がやってきた。
何度も何度も練習した、その通りに身体が動いた。
スペルを唱えた。
だからっ!
来なさいっ!!
この世界、ううん、この世界でなくてもいい!
何処かに居る!
私だけの!
下僕よ!!
強く!
美しく!
生命力に溢れたモノよ!!
我が導きに応えなさい!!!
手ごたえがあった。
いつものように爆発はしたが、だからと言って失敗と決め付けるのは性急だ。
煙が少しずつ晴れると、
影が見えた。
それはゆっくりと大きく、はっきりとした形を作り出した。
そして、
姿を現したのは・・・
「こ、子供・・・?」
ルイズが思わず呟いてしまうのもムリはない。
彼女が召喚したのは、小柄な自分よりもさらに小さい、
可愛らしい顔をした少女だったのだ。
「貴女は・・・なるほど、では一つ聞かせてさしあげましょうか。
が、その前に」
だが召喚された少女は、ルイズの困惑など知る価値もない、
と言った風に一人納得した表情を浮かべた後、
杖を振り上げたコルベールへと視線を向けた。
「う、うわっ!
なんだこれはっ、ちょっと待ってくれ!!」
「すぐに済みます。
皆さん、しばしご清聴願います」
ディティクトマジックを掛けようとしていたコルベールを、
ちらりと見つめただけで呪力により束縛してみせた少女は、
何事も無かったのかのように宣言した後、改めてルイズに向き直った。
ルイズはそんな少女の様子を見て、彼女が外見通りの存在でないことを知った。
ごてごてとした儀礼用と思われる珍奇な衣服で身を包んだ、
何事をも見通す深い色の瞳を持つ少女は、
確かに、普通の枠に入るような存在では無いのだろう。
彼女は軽く瞳を閉じ、少しだけ含むところのある表情を見せた。
それからルイズをしっかりと見つめ、滔々と語り始めた。
「そう、貴女は少し我が強すぎる。
貴女に出来る善行は素直になる、そして異なる価値観を認めることです。
よいですか、そもそも使い魔とは一方的に使役されるべき存在ではありません。
貴女は少しばかり思い違いをしているのではないでしょうか。
全ての者には意志があり、自らの願いの中で生きているのです。
そこを曲げて貴女を手伝おうという輩に感謝の意を忘れることはなりません。
だからこそ、貴女と異なる価値観を有する彼の者が持つ、
その想いを憚らせることは許されません。
貴女は気高く、聡明です。
ですが、誇りと意地を違えぬ子供でもある。
もう一度、召喚の儀式を行いなさい。
そして、私の言葉を心に置き、使い魔と接する貴女を見つめなおすことが肝要です」
彼女はそこで一息吐き、微笑んで見せた。
ルイズがドキリとするぐらい、澄んだ、魅力的な笑顔だった。
「私は四季映姫・ヤマザナドゥ。
貴女がいくつもの季節を巡り、
何度もの岐路を乗り越え、
数多の出会いと別れを繰り返し、
己と別れを告げる夜を迎えた頃、
永久へと続く世界の始まりの場所で貴女と再び見えることを楽しみにしています。
・・・そうそう、その際に渡し守がさぼっていたら、
教えてくださると助かります」
彼女は一方的な説教を終えると、
まるで初めからそこに何も無かったかのように消失した。
だが、ルイズはその事で落胆しなかった。
何故だか分からないけれど、少女の言葉がひどく身に染みた。
ルイズは少しだけ楽になったような気分で、
大切な半身を呼び出すことに、
ただ新しい友を得ることに高揚を覚えた。
高鳴る鼓動を抑えることも無く、
ゼロとさえ罵られる自分の、
本当の使い魔を呼び出さんと彼女は高らかに呪文を唱えた。
その後、ルイズが召喚した平民の男の子と、
どのような主従関係を築いたのかは、また別の機会に語られるべきである。
(終わり)