それにしても、麻帆良に着いた途端に変なのに追われるとはな。
全く、俺っちもついてないぜ。
ま、見方を変えれば兄貴が早くも仮契約したっスから。
早速5万オコジョドルゲットで、・・・ムハッ。
こりゃ、実は幸先のイイスタートかっ!?
って、兄貴!!
俺っちのいない間に、もう1人パクっちまった生徒が居るんですかい!?
そりゃスゲェ!
早速紹介してくだせえよ!?
byアルベール・カモミール


ユエま?第5話 「カモ南蛮って?じゅるっ・・・おいしそー。」


意識が上昇しながらも、ふわふわと漂っている、そんな日曜日の朝。
僕は一時のまどろみの中で、安らかな心地を享受していた。
夢の世界に、影が落ちた。

「・・・んん。」
ゆっくりと目を開ける。
そこには・・・。
「あ・・・?」
少しだけ狼狽した表情を作った、夕映さんが僕を覗き込んでいた。

「夕映・・・さん?」
「あ、あの、・・・そのですね、つまり・・・?」
夕映さんは、こちらがびっくりするくらい慌てた後、ゆっくりと深呼吸した。
それから、じっとこちらを真剣な表情で見つめた。

「ごめんなさい。」
彼女は頭を下げた。
僕は思わずキョトンとしてしまう。
別に彼女に謝られることなんて、何1つしていないし、されていない。

「ネギ先生が危険な目にあっていた時に、私は何も気づかずに馬鹿な事に悩んでいて、申し訳ありませんでした。」
続いた彼女の言葉に、ああ、夕映さんはやっぱり真面目なんだな、という印象を持った。
でもアレは、僕が勝手にやったことだし、そもそも夕映さんのような一般生徒を魔法関連のトラブルに巻き込むわけには・・・。

「ですが!」
夕映さんの口調が一転する。
もしかして、怒ってる?

「先生も先生ですっ!
どうして1人で何でもなさろうとするのですかっ!
10歳とかそういう問題ではありませんっ!
人は決して1人で何でも出来るようには出来ていません。
互いに補い合うことで初めて、出来ることがあるんです。
誰かを、たとえば契約をしてしまった私や、・・・これからは風香さんも、頼ろうとしないのは、それは裏切りです。
何でも頼れ、という訳ではありませんが、それでも頼ってほしいと思っている人を蔑ろにするのは、きっと良くないことです。」

そこまで一気にまくし立てた夕映さんは、再びペコリと頭を下げた。
「・・・すいません、言いすぎですね。」
そんなことはない、と言おうとした僕の言葉を、もう1つの声が遮った。
うう・・・、僕全然喋らせてもらえないよ?

「いやいや、そんなことねぇっスよ。
夕映の嬢ちゃん・・・ゆえっちか。
俺っちもソレは言っておくつもりだったぜ。」

そう言って、僕はニヤニヤするカモ君を見た。
口調も顔もふざけているけど・・・、本気の目だ。
うう・・・、どうして僕がこんなに責められているの?

「ま、兄貴は感謝することだな。
兄貴も責められて辛いだろうけど、ゆえっちはもっと言いづらいんだ。
それだけ、本気で考えてくれる人なんて、普通なかなかいないぜ?
・・・愛、だな。」
「あ、あああ、アイではありませんっ!!?
純粋にネギ先生の協力者として、仮契約したパートナーとして、です!
ネギ先生のことを、第一に考えるのは、その、当然ではないですかっ!
いいですねっ、ネギ先生!!」

「は、はぁ・・・。」
ちょっと前までシリアスな雰囲気だったのに、どうしてこうなるんだろう。
でも、ぎゃーぎゃーと騒ぎあってるこの2人は、うん、仲良くなれそうだね。

「・・・ぜぃぜぃ、全く、カモさんは少し反省してください。
そもそも貴方が学園の結界とやらに無理に侵入しなければ、こんなことにはなっていませんでしたから。」
カモ君をかなり小さなビンに顔以外を押し込んで、夕映さんが人差し指を突き指している。

それに対してもカモ君は涼しい顔だ。
「そしたら、『ネギ先生のパートナーは私だけ(はーと)』だったってか。
乙女心は複雑だねぇ?」
「な、何を言っているのですかっ!!!」
・・・でも、2人して、何の会話をしているんだろう・・・?

「と、とにかく!!
昨日の夜は本当に驚きました。
この、奇怪なカモさんについてもですが・・・、やはり風香さんですね。」
そう、昨日、僕はほぼ初めての実戦を体験して。
それで、風香さんに怪我を負わせてしまった。
傷は直したけど、体力の低下まではまわらなかったから、僕が風香さんを背負って帰ったんだ。
あの時は、ホント大変だったよ・・・。


学生寮への道すがら、カモ君が風香さんに魔法使いについてレクチャーをしていた。
風香さんは「へー」とか「ほー」とか相槌を打ちながら面白そうに聞いてたけど、やっぱりいつもの調子は出てないみたいで。
僕はそんな風香さんを横目で伺うたびに、悲しい気分になってくる。
それに気づいた風香さんが、掴まる手にぎゅっと力を篭める。
それから、
「ネギ、大丈夫?」
と優しい口調で尋ねてきた。

僕は、
「大丈夫ですよ。」
と答えながら、まるで、僕が悪いわけじゃないよ、と言われたように感じた。
・・・うん、何時までも気にしていたら、良くないよね。
反省すべき所は直さなくちゃいけないけど、一番疲れている風香さんに気を使わせるのは間違っているもの。
というか、話を聞くかぎり一晩中追われていたはずのカモ君が一番元気なこの状況って・・・。

「ただいま帰りましたー。」
「おじゃましまーすっ!」
ふぅ、ようやく着いたや。
風香さんの手前まだ大丈夫だって言ってたけど、魔力がそろそろ限界だったから・・・。魔力は生命力。
あんまり急激に使いすぎると倒れてしまう可能性があるっていうのは分かっているけど、今回は緊急事態だった。
とにかく、無事にたどり着けてよかったよ。

「おっ、帰ってきたなー!」
「おかえりなさいですー。」
「おねーちゃん、ネギ先生と一緒だったなんて、抜け駆けですー。」
「うう、ネギ先生、逃げるです・・・。
ハルナの魔の手が迫ってるです・・・。」

わいわいと同室の3人と、遊びに来ていたらしき史伽さんが玄関に駆け込んでくる。
えらく歓迎されているみたいだけど・・・、夕映さんは何でフラフラなんだろう?
「って!?風香ちゃんっ?」
「お、おねえちゃーんっ!?」
「はろはろー、パル。
史伽、そんな叫んじゃ近所迷惑だぞっ。」

すぐに僕の後ろに背負われてる風香さんに皆の目線が移る。
まぁ、仕方ないかもしれないけど・・・。
「大丈夫ですかー?」
「だいじょーぶ、だいじょーぶ。
ちょっと貧血起こしちゃって、くらっと来ただけだから。
ほら、ネギぼーずが大げさに背負ったりするからさ、大事に思われたじゃーん!」
のどかさんに答えたあと、僕の背中からすたりと降りる風香さん。

僕は、少し心配そうにハラハラと一人で立つ風香さんを見つめていた。
すると、風香さんは、心配ないよ、とぱちりとウインクしてみせる。
それを見て、大丈夫かな・・・と僕は少し微笑んでしまう。
「それよりも・・・これっ!!」
じゃーん、と口で効果音を鳴らしながら、風香さんがカモ君を引っ張り出す。
カモ君は殊勝にも「キー」とオコジョっぽい鳴き声を出して皆の気をひこうとしている。

「わー、可愛いー。
お姉ちゃん、コレどうしたのー?」
「オコジョかー、珍しいねー。」
「フワフワモコモコですー。」
案の定、意識がそれた史伽さんとハルナさん、のどかさんがカモ君をいじりまくっている。
カモ君にはちょっと悪いけど、これで漸く一段落かな?
そのとき、少しこちらから離れて、じっと僕を見つめている夕映さんと目があった。

夕映さんがゆっくりとこちらに近づいてくる。
顔が赤いようだけど、・・・もしかして怒ってるのかな?
な、なんかしたっけ・・・、あ!?
き、昨日の仮契約・・・、うう・・・、風香さんのことがあって、すっかり忘れてたよ・・・。
「ゆ、夕映さんっ!
その、アレから・・・何か変わったことはありますか?
僕も、その、初めてのことでしたので。
それに、風香さんに何か気をつけたほうがいいことがあるか、教えてあげ・・・って。」
・・・あ、言っちゃった・・・。

うう、別に言っちゃいけないことじゃないんだけど、なんか雰囲気が気まずい。
「あの、それは、一体・・・!」
う、声は静かだけど・・・怒ってる、怒ってるよぉー。
「あ、あの、それは・・・」
「ソレハ?」
うう、あの人形より怖いかも・・・。
それから、僕はぼそぼそと事の顛末を喋りだした。
ホントは夕映さんを巻き込むつもりはなかったんだけど、・・・うう、情けない。
夕映さんは話が進むにつれ、ムッとした顔から、驚き、そして申し訳なさそうな表情へと変わっていった。

(・・・まさか、そのような事になっていたとは・・・。
そういえば、先ほど何か虫の知らせというか、胸がざわつく感じがありましたが、あれが関係していたのでしょう・・・。
それなのに、うう、私は昨日のキスで動転して1日中混乱してたなんて、壮絶なアホですか?
パートナー失格・・・いえ、それ以前の問題です。
そもそも、ネギ先生は必死に風香さんを助けようとして、仮契約したというのに、私は勝手に怒ってしまうなんて。
というか、よく考えたら別に私に怒る権利なんてないです。
・・・冷静になってみると、さっきの私はなんですかっ!?
ネギ先生が風香さんを背負ってるのを見て、ムッと来て。
アイコンタクト交わしてるのを見てムカついて。
挙句の果てには、怒り出すなんて・・・、きょ、極絶にアホです・・・。)

「あ、あのー夕映さん?」
ずーん、と効果音が見えそうなぐらい落ち込んでしまった夕映さんに恐る恐る声をかける。
「僕は別に何も気にしてませんし、夕映さんも気にする必要はありませんよ?」
「い、いえ、そうは言ってもです。
さっきの自分を振り返るだけで軽く自己嫌悪です・・・。」
「いやー、お嬢ちゃんイイねー。
おじさん、気に入っちゃったっス!
しっかし、兄貴はその辺の機微を全く意識してないっスから、そう気にしなくても大丈夫でさ。
ま、次回に挽回すればイイっスよ!」

何時の間に抜け出したのか、ムハーと声を荒げてカモ君が夕映さんの肩に座っていた。
それからカモ君は僕の方へ顔を向けて、ニヒヒと笑いながら言った。
「それにしても、兄貴も手が早いっスね。
もうパートナーが2人とは、こりゃ縁起がイイねぇ!!」
「もう、カモ君っ!
そういうんじゃないんだってばーっ!?」
僕はカモ君の軽口に文句をつけながら、ちらりと横目で夕映さんを見る。
・・・まだ落ちこんでいるみたいだけど・・・、少しは立ち直ってくれたのかな?


そんなことが昨日の夜にあった。
それからは、寝不足だった僕も夕映さん、体力が尽きかけていた風香さんも早々に眠りについてしまい、今朝になった。
カモ君は夕映さんとの口撃合戦を一段落させ、こちらに向き直って言った。
「ま、ゆえっちにも出来ることがあるって教えてやらないといけないっスね。
兄貴も仮契約とパートナーの特性についてはほとんど知らないみたいだし!
あっちの小さいお嬢ちゃんも呼んで、いっちょレクチャーしてやるかな!?」
「特性?そういえば、アーティファクトだっけ?」
僕はキョトンとして、言い返す。
一昨日に夕映さんから聞いた話を思い出す。
「その通りっス。
よく知ってたっスね、でも細かいとこまでは知らないみたいなんで。
ま、その辺も何度も説明するのは面倒くさいんで、まとめてって訳っス。」
僕はカモ君がにょほほほ、と笑いながら、
「いやーホント何が出るか楽しみっスねー。」
と呟くのを聞いた。
・・・ホントにアーティファクトって何なんだろう?


朝食後、僕と夕映さん、それからカモ君が呼びに行った風香さんの3人は世界樹前の広場に集合していた。
まだ、朝もかなり早い時間なので、僕たちの他は誰もいない。
これなら、ちょっと込み入った話をしても大丈夫・・・だよね?

「ねー、ネギぼーず?
ちょっとお願いがあるんだけどさー。」
朝の挨拶を一通り済ました後、風香さんが僕に話しかけてきた。
「はい、何でしょう?」
「史伽を誘っちゃダメかなーって。
ほら、僕ら一緒にいること多いから、史伽に隠し事通す自信がないんだよー。」
「ええっ!!?」
う、うーん。
確かにそうかもしれないけど、あんまりたくさんの人にばれちゃったら、僕がオコジョに・・・。
「風香さん、ネギ先生が困ってます。
隠し通せないようなら、仕方がないのかもしれません。
が、取りあえずは隠していただける範囲で、努力してみてもらえませんか?」
「うっ、ゆえ吉、まるでマネージャーみたいに・・・。
なんだよー、別にいいじゃーん!
史伽は僕の妹だぞー!?」

「では、その結果、ネギ先生がオコジョになってしまっても構わないとおっしゃるわけですね?」
「へ?」
風香さんが目をキョトンとさせて・・・って、その事話してなかったっけ。
「実はですね、あの、魔法を知らない人に魔法使いであることがバレてしまうと、罰としてオコジョにされてしまうんですよ。
ですから、普通、魔法使いが魔法を見られてしまった場合は、記憶を消すなど、徹底的に魔法がバレないように工作をするんです。」

「え・・・、えーー!何ソレー!!
横暴じゃーん!
ネギぼーずもそんな事したのかーっ!?」
じろりとこちらを見つめる風香さん。
「い、いえ、していたら、ここに夕映さんはいませんよ。
夕映さんも・・・その、バレてしまったんですが、協力して下さるということで、助けていただいています。」
「そなんだー。
ま、それなら確かに隠したいって気持ちは理解できるなー。
史伽にはしばらくは内緒かー。」
どうやら納得していないものの、理解はしてもらえたみたいでほっとする。

「さて、そろそろパートナーの説明をさせてもらってもイイかい?」
こちらの様子を、大きな岩の上に座りながら眺めていたカモ君が口を挟んでくる。
「うん。カモ君、お願い。」
「ま、嬢ちゃん方は途中分からないことがあったら遠慮なく質問してくれ。」
「ええ、分かりました。」
「了解―。」

「ま、兄貴とゆえっちは知っていると思うけど、おさらいも含めて最初からだな。
始まりは御伽噺だな。
その辺は省略するが、その話にならって1人の魔法使いに1人の従者。
いわゆる、『ミニステル・マギ』と呼ばれるパートナーがいるのがいいと言われているわけだ。
ま、現在では形骸化しちまって、ただの結婚相手としてしか捉えない魔法使いも多いみたいだがな。
兄貴もその口みたいだし。」
そう言って、にょほほほ、と笑うカモ君。
うう、確かにそう思ってたけど・・・。

「で、だ。
パートナーの本質っていうのは呪文詠唱中、無防備になる魔法使いの守護が基本なわけだが・・・。
信じあい、支えあえるような関係であることが重要なのさ。
だからこその、結婚相手、なんだろうけどな。
だが、それはあくまで本契約。
原則1名という縛りもあれば、パートナー選択も一生モノの判断っスから大いに迷って容易に決められるものでもないっス。
そこで登場するのが仮契約。
このシステムを利用することで、互いの相性を確認することが出来るっス。
何人とでも結べるから、比較的お手軽に試せることもポイントだな。
それに仮契約って言っても、侮れないっスよ。
仮契約カードにより通信・召還、魔力による肉体強化、そしてアーティファクトもゲット出来る優れモノっスからね。」
そう言って、カモ君が取り出したのは、1枚のカード。

「これが風香の嬢ちゃんの仮契約カードっス。
俺っちの力で2枚にコピーしてあるんで、オリジナルを兄貴、コピーを嬢ちゃんが持つのがベターだな。
で、コピーの方も普通に使えるんで、嬢ちゃん?」
「ん、なーに?」
突然話を振られたにも関わらず、普通に答える風香さん。
これまでの話しは一回で全部理解できたみたい。

「このカードを持って、『アデアット』と唱えてくれねぇか?」
風香さんはカードを受け取ると、ポーズをびしっと決めて、
「アデアット!!」
呪文を唱えた。
一瞬風香さんの手元が光り輝き、次の瞬間には・・・。
一本のファイティングナイフが握られていた。
「な、何コレー!!?
スゲー!!」

「アーティファクトの名前は『フォルティス・アンジェリウス』、日本語だと『立ち向かう天使』ってところか?
しっかし、こりゃえげつねえなぁ・・・。
ナックルガードもついてやがるし、近接戦闘用なのは間違いねぇか。」
カモ君がにやりと笑みを浮かべる。
「しかし、何か特殊な能力があるはずなんだがな。
嬢ちゃん、ちょっとそれを兄貴相手に振り回してもらえねぇか?」
って、カモ君、そんなーっ!?
「兄貴、ま、素人の嬢ちゃん相手だったら、組み手ぐらい出来るだろ?
お願いするぜ。」

うう・・・。
風香さんの手元のナイフを見る。
ただでさえ、ごついのに、風香さんが握っているともっと仰々しく見えるよ・・・。
「じゃあ、ネギぼーず、行くよーー!!」
って、もう始まってるのっ!?

タカミチから教わった護身術で対処できると思うけど・・・。
風香さんは左右にブレながらこっちにって、は、速い!!
すぐに両手に魔力を集中させて、万が一に備える。
でも、左右にちょっとずつ重心を動かしているから、どちらから来るのかー!?
僕が左右に気を配っている間に、風香さんが居なくなって??
その途端、後ろにぴったりと誰かが張り付く気配。
「はい、チェックメイト。」

辺りを静寂が支配した。
「こ、こりゃすげぇ!!
嬢ちゃん、何か武術とかやってるのかっ!?」
カモ君は大興奮。
って、僕のこと忘れないでー?
「ふっふっふ、ボクは鳴滝忍法の使い手だからー、と言いたい所だけど。
このナイフを持ってると、どう動けばいいのかが自然と頭に浮かんでくるんだよねー。
で、ネギぼーずの意識を左右に集中させておいて、正面が視界から外れた瞬間に一気に回り込んだわけ。」
「へ?じゃあ、あの運動能力は嬢ちゃんの自前かい?」
「そりゃそうだよー、疲れたしー。」
「そりゃ驚きだな・・・。
これはとんだ拾い物かも知れないぜ、兄貴。
って、兄貴!?」

僕、さっきからずっとナイフが首筋に当てられたままで・・・つ、疲れる。
「風香さーん、取りあえずナイフを下ろしていただきたいんですけど・・・。」
いい加減、硬直から解き放たれたい僕を、イタズラっ娘の笑みを浮かべた風香さんが・・・ってまさかっ!?
「えいっ」
軽い掛け声とともに、ナイフを僕に突き刺した!
「ぎゃーーー!?
って痛くない・・・?」
「どうやら、切れないみたいなんだよー。」
ひっひっひ、と怖がる僕の表情を見て、笑みを隠しきれない風香さん。
うう・・・ひどいや。

「な、なんじゃそら・・・。」
カモ君は少し落胆した表情。
僕は、ようやくナイフを外してもらって、ほっとため息。
「まー詳しいことは追々だな。
ちなみにアーティファクトをしまうときは、『アベアット』だぜ?」


「あの、カモさん。
私のカードの複製もお願いしていいですか?」
続いて、夕映さんがおずおずと話を切り出す。
「ああ、もちろんだぜ。
・・・ほいっ!」
結構簡単にコピーを作ったカモ君が、夕映さんにカードを返す。
今度は平和的なのがいいなあ・・・。

「では、いくですっ!!
アデアット!!」
夕映さんはさっきからずっと待っていたのか、もう待ちきれない感じで早速呪文を唱えた。

今度のは・・・本?
かなりしっかりした装丁だけれども・・・、これは能力って想像つきそうもないなぁ。
「えーっと、ですね・・・、こ、これは・・・。」
ごくり、と僕たちの喉がなる。

「・・・」
「・・・」
「・・・」
たっぷりの沈黙のあと、夕映さんが心底申し訳なさそうに。
「あの、この前ネギ先生にいただいた、『初等魔術のための教本』と同じものみたいです・・・。」

「だぁーーー!?」
カモ君が盛大にすっころぶ。
「・・・ま、まぁ、こればっかりは完全ランダムだからな。
仕方がないっちゃ、仕方がないな。」
立ち上がってから、慌ててフォロー入れているけど・・・。
「そ、そうですか・・・。」
う、夕映さん、ちょっと落ち込んでるかも・・・?

「あ、あの、夕映さん?」
僕もフォローを入れようとして、夕映さんに話かけた瞬間、
「あっれーー?ネギ君―――!!」
別の人の声が被った。
・・・このパターン、多いような気がするよ・・・。

「おはよー、昨日ぶりー。」
「おはようございます、ネギ先生。」
「ねーねー、ネギ君、ネギ君。
こんな朝早くからどうしたのー?」
トレーニングウェア姿のゆーなさん、アキラさん、まき絵さんの3人がこちらに走ってくる。
「おはようございます、皆さん。
僕の友達がイギリスから来たんで案内していたところなんですよ。」
僕はそう言って、カモ君を抱き上げる。

「おこじょ?」
「かわいい・・・」
「真っ白だー。」
カモ君は3人に抱き上げられて、わいわいきゃあきゃあと構われている。
・・・ちょっと嬉しそうにみえるから、いいよね?

「あ、そうだー。
風香、昨日はよくも家のバスケ部が弱いって吹聴してまわったわねぇ!」
「ほんとのことじゃーん!」
「ぐさぁっ!」
「ゆーなは1500のダメージを受けたー!?」
「まき絵!変な茶々いれないでっ!?」

あああ、ゆーなさんが座り込んでのの字を書き始めちゃったよ。
と思ったら、立ち上がって、僕の手をがしっと掴んで・・・?
「ふっふっふっ、こうなったら、天才の頭脳で我が部を最強に導いてやるー。
ネギ君、顧問になってーー?」
「えええっ!?
でも僕、バスケは素人ですよ?」
「試合相手のデータから、最も勝率の良いパターンを見つけ出し、それを指導するのよっ!
ほらっ、マンガとかだとよくあるじゃん!!」
「あー、ずるーいっ!
だったら、新体操部の顧問だよーーっ!?」
「新体操強いから必要ないじゃんっ!?
ウチは来週の日曜にある芸大付属との試合に勝たなくてはいけないのさー!」
「って、引っ張らないで下さいーーーっ!?」

僕の両手を持って、引っ張り合いを始めるゆーなさんとまき絵さん。
そのとき、
「麻帆良芸大付属中学ですか・・・。」
という声と、彼女が持つ本がかすかに揺らぐのが見えた。

「・・・麻帆良芸大付属中学、バスケ部。
4番のキャプテンと7番のポイントガードの2名が要注意人物のようですね。
布陣はゾーンディフェンスを取ることが多く、7番のスティールからの速攻によって点を稼ぐチームのようです。
麻帆良学園中等部との戦跡は15勝1敗。
現時点での麻帆良学園中等部の勝率は、25%程度でしょうか。」

「ゆ、ゆえ吉ーーーっ!?
そ、そんな情報どこからーーーっ!?」
ゆーなさんが僕の手を離して夕映さんの持っている本を覗き込みにいってしまった。
思わず、ホッと息をつく・・・けど。
「あ、あのー?」
「ん?なーに、ネギ君?」
「まき絵さんは・・・、見にいかないんですか?」
「せっかくゲットしたネギ君を堪能してからねー。」
うう・・・捕獲された気分・・・。

それから5分程して、ようやくまき絵さんに開放されてみると、夕映さんは、残りの皆さんの質問攻めにあっていた。
その全てにすらすらと答える夕映さん。
・・・これってもしかして?
「ま、そうだろうな、兄貴。」
「カモ君?
喋って大丈夫?」
「あー、皆あっちに夢中だからなぁ。」
「うん、そうだね・・・、まき絵さんも今はそっちに夢中みたいだし。」

カモ君はふぅー、と大きくため息をついてから、
「ま、ゆえっちのアーティファクトは、辞典、もしくは検索ポータルってところだな。
名前も『オルビス・センスアリウム・ビクトウス』、日本語で『世界図絵』だしな。
・・・まさか、アガスティアって訳はないよな。」
「さ、さすがにそれはないと思うけど・・・。」
アガスティア 、すなわち『運命の預言書』であれば、破格すぎると思うし・・・。

「しっかし、ゆえっちのアーティファクトがあれほどのものだとは思わなかったぜ。
ま、日本のことわざでは、 『山椒は小粒でもピリリと辛い』なんてのがあるみたいだしな。
こりゃ、もしかしたら案外、掘り出し物かもしれねぇっス。」
カモ君はそれから、ううむ、と首を捻って、
「いや、そっちの3人もなかなか・・・、うほっ、もしかしてここは宝の山かっ!!?
兄貴にはせいぜい頑張って、仮契約に励んでもらいたいもんスねっ!?」
・・・うう、これ以上バラすことにはなりたくないんだけど・・・。
あ、あのー、カモ君、聞いてる?
(続く)