全く、この私にこんなくだらないことをやらせるとはな。
いささか、調子に乗ってるんじゃないか?
何?こっちに喋りかけるなだと?
どうして私がお前の言うことを聞かねばいかん。
しまいには、八つ裂きにしてやるぞ?
・・・ん?
座興はここまでだな。
失礼する。
by エヴァンジェリン


第4話 ドールとオコジョと双子とネギと?


彼女は遊離していた意識が自分の肉体に戻ってきたことを確かめると、目の前に控えていた従者に目を向けた。
「茶々丸、何か来たぞ。
学園の結界を越えたモノがいる。
全く、真祖たるこの私が警備員だとはな。
忌々しい呪いだ。」
彼女の言葉に反応した従者が、無機的な音声を発する。
「マスター、こちらの対人用トラップには反応ありません。」
「そうか、では相手はケットシー、猫の妖精の類か何かといったところか。」
従者の言葉に疑いも持たず、さらりと言い放つ少女。

「そうだな、茶々ゼロ、お前、ハカセが造ったボディで追い立ててみるか?
魔術的な核以外は、全て電力で補う機構らしくてな。
よく分からんが、今の私でも1体やそこらなら使役できるらしい。」
つい、とその少女は従者から視線を外し、人形がたくさん並んでいる棚へと、まるで当然のように喋りかけた。
「ケケケ、イイノカ、ゴ主人?
殺シチマウゼ?」
「ま、ほどほどにな。
ターゲット以外に姿を見せなければ、場合によっては消しても構わん。」
「ケッ、アノ『闇ノ福音』ガズイブン丸クナッチマッタナ?」
少女の目がすっと細まる。
「ほぅ、貴様も中々言うようになったな?」
「ソリャ、15年モオ人形サンヤッテリャー性格モユガムナ?
悪ノ悪ナリノ美学ッテヤツハ、ゴ主人ト違ッテ損ナワレテイナイト思ッテルガナ。」
「ふん!私は私だ。
数百年もの間、世界中で恐れられた不死の魔法使い、闇の福音、エヴァンジェリン様だ。
今更10年やそこらで変わる訳もなかろう?」

「マスター」
余計な動作は一切せずに、傍らに控えていたはずのもう1人の少女の声が、2人の間に割って入る。
「何だ、茶々丸?
お前が行くか?」
「いえ、あの、ネコを・・・殺すのは・・・。」
「をい、茶々丸・・・。
えぇい、分かった、分かった!
そう切ない目で私を見るな!」
「ケケケケケ」
「そっちは笑うな!
茶々ゼロ、程々にいたぶってやればいい!!」
「アイヨ。
マァ、カワイイ妹ノ頼ミトアッテハ聞イテヤラナイ手ハナイカラナ?」
そう言い放ち、茶々ゼロは一瞬の内にヨリシロを移動し、機械化されたボディでログハウスを飛び出していく。

「ちっ、行ったようだな。」
「マスター、茶々ゼロさんはすぐに戻られますか?」
「それはないな。
久々の自由だし、1日ぐらいの鬼ごっこは許してやるさ。
ま、ハカセの発明品が暴走でもしない限りは、あいつも言われた事は守るだろうしな。」
「・・・」
「ん?どうした、茶々丸?」
「いえ、それ程までにマスターに理解して頂いている茶々ゼロさんが少し、羨ましくなりました。」
「さてな?
あいつとはお前が思っているような関係ではないが、長い付き合いだからな。
多少はあいつがやりたいことも分かるつもりだ。」
「・・・そうですか。」

「では、後は茶々ゼロに任せるとしよう。
明日は土曜日だしな。
学校に煩わされずに、この前買ったゲームをしたいんだ。」
「マスター、本日も授業には出ておりません。
エスケープされています。」
「絶対に学校に行かなければいけないのが嫌なんだよ。
さすがに5周目じゃ、どんなゲームだって飽き飽きするものだしな。」
「では、1周目はマスターも楽しまれ・・・」
「お前はもう喋るなっ!
ネジを巻いてやるっ!!」
「あああっ、ご無体なー?」
そして、夜が過ぎていく。


「はぁー、ううぅ、全然眠れなかった・・・」
僕は寝不足でどんよりとした頭を抱えて、ソファーから抜け出す。
「おはよー、ネギ君!
って、どしたの?
なんだか、昨日の夕映みたいだよっ!?」
既に起きだして、コーヒーを飲んでいたハルナさんに朝の挨拶を返す。
「あ、は、はい、おはようございます。
ちょっと寝不足でして・・・、今日は土曜日ですしゆっくりしていようかと・・・」
夕映さんの名前を聞くだけで、昨日のことが思い出されてしまう。
赤くなっていないかと少しだけ顔を伏せながら、僕は簡単に今日の予定をハルナさんに話す。
「うーん、ネギ君?
ずばり、何かあった?
ラブ臭が感じられるんだけどー?」
「えええっ、な、何もないですっ!」
ラ、ラブ臭って・・・?
なんだか分からないけど、イヤな予感がひしひしとする。
「んー、そっかなー?
ねーぎーくーんー?」
「あ、ああ、そ、そそそ、その・・・」
「ふっふっふ、こうなったらちょいと禁じ手を使って・・・」
あわや、と思ったその瞬間、『ピンポーン』という音が部屋の中に響く。
「おや?
こんな朝っぱらから、誰だろー?」
ほっと息をつく。
誰だか分からないけど、一時的にでも助かったことに感謝しておこう。
今のうちに、どう言い訳するか考えておかないと・・・。

「はよーっ、ネギぼーずっ!」
「おはようございますーっ!」
考える時間も無いまま、闖入者が部屋に入ってくる。
「ネギぼーずはさんぽ部が接収しまーす。」
「するですーっ。」
「えええっ、風香さん?史伽さん?
一体どうしたって言うんですか?」
「あぶぶぶっ、ネギ先生が赴任されて初めてのお休みですし、学園の中を案内しようと思いましてー。」
「おー、1日掛けて案内してやるからなー。
お昼はネギぼーずの奢りだかんねー?」
確かに、中等部周辺だけでもまだまだ知らない所はたくさんあるし・・・。
うん、せっかくだから、お願いしちゃおう。
「分かりました。
今日はよろしくお願いします。」
あ、そうだ。
杖を持っていかなきゃいけないけど、・・・僕の杖じゃ大きすぎるからな。
携帯用の杖を持っていこう。
「すいません、準備しちゃいますから、少しだけお待ち下さい。」
「あ、ネギ君、おにぎり作ったから食べていくといいよー?
ちなみに、帰ってきたら続きを聞くからねー。」
ううっ、ホントに助かったのは一時的だ。
でも、今のところはせっかく僕のために学園を案内してくれる2人を待たせないようにしないと・・・。
「ネギ先生?
急がなくても大丈夫ですー。
お姉ちゃんが早くって言うから早めに来ただけで、時間には余裕あるですからー。」


それから10分後。
寮を出て、門の前に集合した僕たちは今日の予定を話し合っていた。
どうやら、今日は中等部の周囲の学校施設をぐるりと廻るコースで散歩に連れていってくれるらしい。
早速行くぞー、と風香さんが元気良く歩きだす。
あ、待ってーお姉ちゃん、と史伽さんも風香さんを追いかけていく。
・・・何だか、2人を見ているとアーニャと僕が一緒に遊んでいた頃を思い出す。
僕がまだ、何にも知らなくて、アーニャがお姉さんぶって、僕を引っ張りまわしていた頃に。
なかなか追ってこない僕を見かねて、文字通り引っ張っていこうとする2人が楽しそうで、僕までなんだか楽しくなってきてしまった。
朝もまだまだ早い時間帯で、人通りはほとんど無い。
暖かい日差しが降り注ぐ中を僕たちはたわいも無いお喋りをしながら、歩いていく。
なんだか、背が近いせいか分からないけど、2人とはとっても話しやすいや。
でも、こんな朝早くに行く場所って・・・?
僕がそれを尋ねようとした瞬間、
「見えたよー!」
と呼びかけられる。
・・・一体何が、って、わぁ!
そこに建っていたのは教会だった。
朝日を浴びてきらきらと輝く、白亜の教会。
日本にあるのに、僕の地元にあった教会より大きいや・・・。
壮言な雰囲気に飲まれたのか、僕は声も無く立ち尽くし、2人はそれを見てしてやったりの笑顔を見せている。
「それでですねー、ネギ先生。
この教会には、なんと驚きの人物が通っているですー!」
「そーそー、そろそろ朝のお勤めが終わって出てくるはずだよー!?」
風香さんの言葉が終わる直前に、ギギギ、と音を鳴らして扉が開かれた。
教会のシスターらしき人物がこちらに向かって歩いてきて・・・?
「こらっ、双子っ!!
あんた達五月蝿い!
私が怒られちゃったじゃない?」

って、ええ!?
クラスメイトの春日さん?
「うわ、美空横暴〜。」
「横暴です〜。」
「か、春日さん?」
その呼びかけまで、僕の存在に気づかなかったのらしい。
春日さんはこちらにぐるん、と首だけ回して器用に向き直り、再び首をぐるんと回して元の位置に戻っていった。
「・・・何で、ネギ先生がっ?
あ、あちゃあ・・・はっ、そうよ!」
春日さんは1人でぶつぶつと呟いた後、再びこちらに向き直った。
「キミは双子のお友達かい?
私は謎のシスター。
決して、キミのクラスの春日美空ではないから、その辺りは理解しておくと良い。
ハッハッハッ」
は、はぁ・・・?
「ミソラ?何やってる?」
開きっぱなしだった教会の扉から小さな可愛らしい少女が顔を見せていた。
美空さんは・・・あ、固まった。
「コ、ココネー!?
私は美空じゃねぇっす。
謎のシスター。
国籍、イタリア。
日本語分かりませーん?」
思いっきり日本語喋ってるけど・・・。
「お?アノ娘は?」
「美空さんの子供ですー。」
「なわけあるかーっ!!」
やっぱり、春日さんだよね・・・どう見ても。
「何をしているんですか、騒々しい。」
教会の中からまた新しい声が聞こえた。
今度はどんな人だろう?
「げ。
シスターシャークティだ、ネギぼーず、逃げろー!」
「ええっ!?」
「朝から説教1時間コースはイヤですー?」
「わ、わわわ!?」
2人に両手をがっちりと掴まれて、引っ張って連れていかれてしまう。
この2人の逃げっぷりから見て、結構怒られているんだなぁ、と思ってしまう。
「うう、私だけ説教っスか・・・。」
とか言う声が後ろから聞こえた気が、
「あの、春日さんはいいんですか?」
「へーき、へーき。」
「いつものことですー。」
・・・そうなんですか。


5分ほど走って逃げて、ダビデ像のあるところまでたどり着くと、2人は芝生の上に座り込んで息を整え始めた。
「ネギぼーず、すごいなー。
全然息切れてないしー。」
「ハァハァ、すごいですー。
私は、もう、ダメですー?」
そう言って倒れこんでしまった2人はぼーっと空を見上げている。
「ネギぼーずも寝っころがれ?」
そう言って、両手の袖をぐいっ、と引っ張られる。
「あわわ・・・!」
どすんと一回転して地面に転がってしまう。
・・・うう、ひどいや。
「ほら、ネギぼーず!
空が大きくて、青くて、すごいよー!?」

「あ・・・!」
確かにすごい・・・、ウェールズとは違う空の色だ・・・。
あの空の果てには、お姉ちゃんやアーニャ、カモ君に・・・それから、父さん。
どこかで、僕と同じ空を見上げていたりするんだろうか。
父さん・・・、僕は貴方に少しでも追いつくために、頑張っています・・・。
ふと、視線を横に向けると、何故かこっちをじっと見つめている風香さんが居た。
「あの、風香さん、どうかしましたか?」
「ん?ああ、ネギぼーずがさ、えらく大人に見えちゃって・・・。
ボクは、ネギぼーずのこんなに直ぐ傍にいるのに、なんだか遠いなぁーって。
ガラでもないんだけどさ?」
そう言って小さく笑った風香さんは、僕に向けてすっと指を伸ばして・・・
「10歳のくせに生意気だぞっ?」
そのままデコピンをしてきた。
僕の額からペチンと良い音が鳴る。
「あぅ、痛いですよー。」
「あはは、お姉さんを心配させた罰だから、痛くて当然だー。」
「うう、僕先生なのに・・・」
「お姉ちゃん、先生困らせたらだめぇ・・・むにゅむにゃ」
そこに史伽さんの寝言が割って入ってきた。
史伽さん、静かだと思ったら、いつの間にか寝ちゃってたんだ・・・。

「もー、史伽はー?
いい天気だといえ、冬なんだから寝ちゃったら風邪引くってー?
ほら、起きなさーい!」
「あ、あぅ、むにゃ?あ、あれ?
でーっかい焼きおにぎりが、滑って転んですってんころりんです?」
「あ、あはは・・・。おはようございます。」
一体どんな夢を・・・、確かさっきまで僕や風香さんが出てきてたと思うんだけど・・・。
「ほら、史伽、よだれよだれ。
全くもー、だらしないんだからー。」
「あ、ありがと、お姉ちゃん。」
言葉とは裏腹に優しく史伽さんの口元を拭ってあげている風香さん。
史伽さんはそれをはにかんだ笑顔で受け入れている。
風香さんは立派な『お姉ちゃん』で、アーニャみたいって思ったけど、やっぱり違って・・・いいなぁと思ってしまう。
僕のお姉ちゃんは、ずっとずっと遠くで、会いたいな・・・。
「こーら、ネギぼーず?
何寂しそうな顔してんだ?」

物思いに耽っていたら、ふいに風香さんに話しかけられる。
・・・というか、今日はやけに隙だらけな気がするや。
疲れているのかな?
「あ、いえ、お姉ちゃんっていいな、って思って。
僕もお姉ちゃんがウェールズにいるんで、少し思い出しちゃって・・・。」
「そうなの?
じゃあ、今日からボクが日本に居る間はネギぼーずのお姉ちゃんになるよ!」
「ええっ!?」
「あぶぶ、お姉ちゃん、ずるいー。
私もネギ先生のお姉ちゃんになりたいですー。」
「ダーメダメ、史伽は甘えん坊だからなー。
お姉ちゃんになりたかったら、ボクみたいにしっかりしなきゃー?」
「ううう、ずるいよー。
お姉ちゃんだって、別にしっかりしてないじゃーん。
部屋は散らかしっぱなしだし、食事当番もすぐサボるしー。」
「そ、そんなことないもんねー!」
突然言い合いを初めてしまう2人を宥めるうちに、僕の郷愁は消えてしまったようだ。
慰めてもらった・・・のかな?


小一時間くらいぼーっとした後、僕たちは再び散歩に戻った。
僕が授業で普段使うことのない、グラウンドや体育館といった学園施設を案内してもらうことになった。
「もう部活あるとこ始まってるから、丁度良い時間帯だよー。」
部活か・・・、クラスの皆さんも様々な部活に所属してたなぁ。
「お二人は散歩部なんですよね?」
「そですー。
いつもまったりぶらぶらしてますけど、麻帆良祭ではイベントを開いたりもしてるですー。」
「麻帆良祭ですか。
すごい大きな文化祭なんですよね?
楽しみです。」
「すっごいびっくりすると思いますー。」

「やっほー、ネギくーん!」
先に行っていた風香さんが裕奈さんを連れて戻ってきた。
そのまま中等部専用の体育館まで一緒に行くと、うわぁ、何面あるんだろ・・・、この体育館広いなぁ。
「21ある体育系クラブの生徒たちが、ここで青春の汗を流しているんだよ。」
裕奈さんはそう言うのを聞きながら、体育館の中をざっと見渡す。
「裕奈さんはバスケ部ですよね、バスケ部は強いんですか?」
僕がそう尋ねると、裕奈さんはうって感じの顔になる。
・・・もしかして。
「ネギぼーず、それだけは聞いちゃなんねぇ。」
「ウチで強いのは、バレーにドッヂボール、それから新体操ってところですー。」
「ほっとけー!!
お前らなんてキライだー!?」
「ああ、ゆーなさーんー!?」
あああ、行っちゃった。

「アレ?ネギ君?」
「お、まきえ、ちあー。」
「こんにちはですー。」
呼びかけの声に振り向くと、まき絵さんが部活中らしきレオタード姿でこちらにひらひらと手を振ってくれていた。
「こんにちは、まき絵さん。
わー、とっても可愛らしいですねー!」
「え、そうかなー。
えへへー、ネギ君、ありがとー。」
「むっ。
ほらっ、ネギぼーず、次行くよ、つぎー!」
突然、風香さんに襟首を掴まれて引きずられる。
「え、ええっ、あ、あの、まき絵さーん、また今度―!」
「今度はゆっくり見にきてねー!」
まき絵さんの呼びかけに応えながらも、ずるずると外まで連れ出されてしまった。


「おねーちゃん、お腹すいたんでそろそろご飯にしよー?」
ちょうど、食堂棟の目の前だし、いいかもしれないや。
「うーん、そだねー、ネギぼーずも良い?」
「はい、でも食堂棟は初めてですねー。」
結構大きいなー。
聞いた話だと、地下から屋上まで食堂・喫茶店の類が埋め尽くされているらしい。
「今日は、ネギぼーずの奢りだから、えーと、どこがいいかなー?」
「超包子はー?」
「うーん、中華かー?
デザートにパフェ食べたいからなー。
パスかなー。」
2人は早速何を食べるかで盛り上がっているし、僕は・・・って。
奢りなんですか?
「当然じゃーん、大人として奢ってくれないとー。」
・・・さっきはお姉ちゃんとか言ってたような。
まぁ、今日は一杯お世話になっちゃったし、支度金とか給付は受けたので、全然構わないんだけど。

そんなこんなでお昼ご飯を食べた後、2人はわいわいとデザートのパフェを食べさせ合いをしていて、ほんと仲が良いなぁと微笑ましく思ってしまう。
僕はふと思い出した携帯用の杖を取り出す。
杖の先にはペンタゴンがレリーフされているものの、一見すると指揮棒に見えるぐらいのシンプルな杖。
父さんの杖はとっても使いやすいんだけど、こういったものの方が持ち運びには便利かな・・・。
そんなことを考えていると、
「あー、ネギぼーず、何ソレー?」
「カワイイですー、見せてくださいー。」
と、いつの間にかパフェを食べきった2人に奪われてしまった。
「あ、あの、きちんと返して下さいね。
大事なものですのでー。」
「はーい、分かってるよー。
変わった指揮棒だよな、うーんこの先っちょの模様が不思議―。」
「なんだか、魔法使いさんの杖みたいかもー。」
「えー?そうかなー、魔法使いって言ったら、もっとこー、大っきな木の杖じゃない?」
「そうでもないよー。
最近の魔法使いのお話は、そういうのが多いんだよー?」
「じゃあこれって、そういうおもちゃなの、ネギぼーず?」
「いえ、ウチに昔からある指揮棒ですよ、アハハ。」
「昔からある指揮棒ってどんなだよー!?」
「さすがイギリスですー。」
うーん、無用心に魔法の道具を出したのは失敗だったなー。
その杖が気に入ってしまった2人に貸したまま、食堂棟を後にする。

「それじゃあ、次はやっぱり、あそこかなー?」
「あれ?
グラウンドじゃないの、お姉ちゃん?」
「昼休みの時間だし、先にあっちでしょー。」
「あ、そっか。
じゃあネギ先生、こっちですー。」
そう言って、裏山の方に僕を誘導していく2人。
こっちには、何があるんだろうなーと思いつつ付いていこうとしたその時、ぞわり、と何かを感じ取った。
・・・何だろう?
何か、異質な気配を感じる・・・。
「すいませんっ!!
急用が出来ましたんで、これで失礼させてもらいますっ!!
今日は本当に楽しかったです。
ありがとうございましたー!!」
2人の返事を聞く間も無く、気配を感じた方角へ走り出す。
近くもないけど、そう遠くもない・・・。

「お、おーい、ネギぼーずーーー!?
行っちゃった・・・。
どしたんだろ?」
「急用って言ってたから、お仕事じゃないの、お姉ちゃん?
って、お姉ちゃん、その棒!」
「ああーっ、あちゃぁ・・・。
うーーん、史伽、ボクこれ届けてきちゃうから、先に帰ってていいよ?」
「私も行くー!」
「ダメダメ、あんなに急いでたんだもん、時間は掛けられないよ。
ボク1人の方が早いしね。
史伽は寮に戻って、ハルナたちに伝言しておくこと!」
「わ、分かったよー。」
「じゃあ、急いで追いかけてくる!」
そう言って、風香はネギが走っていった方向へ走り出していった。


僕がその場所へ急いで駆けつけてみると、そこでは包丁を2本持ったえらく奇妙な人形が、蹲る何かに向けて「ケケケケケ」と笑っている最中だった。
「ドール・・・!それにあれは・・・オコジョ妖精!?」
咄嗟にドールに向けて呪文を唱える。
「ラス・テル マ・スキル マギステル 光の精霊11柱! 集い来たりて 敵を射て!!」
「サギタ・マギカ セリエス・ルーキス!!」
僕から放たれた11本の魔法の矢が、ドールとオコジョ妖精の間を遮るように突き刺さ・・・、あれ?
3本しか出てないっ!!
って、ああ!!
僕杖持ってないや!!?

僕の動揺をよそに、3本の矢でもドールを下がらせるのには成功したらしい。
オコジョ妖精とドールの間が10m以上離れる。
すると、オコジョ妖精がダッシュでこちらに走り寄ってくる。
「ど、何処のどなたかは存じませんが、ありがたいことでさぁ!!
あの人形が突然襲い掛かってきて、もう一昼夜飲まず食わずで・・・。
ああ、故郷の病弱な妹を残してここで若い命を散らしてしまうのかと、諦めかけたその瞬間の光明。
まさに、貴方様は俺っちの命の恩人でさぁ!!
・・・って、ネギの兄貴じゃねぇか!!!」
「ひ、久しぶりだね、カモ君。
どうして日本に・・・って聞きたいところだけど、今は無理かな・・・。」
「おいっ!そこの腐れ人形!!
さっさとケツまくって帰った方が身のためだぜ!!
この兄貴はなんと!
あのサウザンドマスターの息子で、ご自身も強力な魔力を持つお方だっ!!」
・・・ハハ、カモ君、相変わらずだなぁ。
って、和んでる場合じゃない。
こっちに杖が無いことを気取られないようにしないと・・・。

「ケケケケケ、サウザンドマスターノ息子ダト?
ソレハイイコト聞イタゼ。
アイツニハ散々煮エ湯飲マサレタシナ。
ソノ息子カ、腕前ノホドヲミセテモラオウカ。」
ええっ!?父さんの事を知っている!?
「ちょ、ちょっと待ってください。
貴方、父さんのことを知ってるんですか?」
「ゴ主人ガエラクゴ執心ダッタンデナ。
マ、コレ以上知リタケレバ、俺ヲ倒シテカラダナ。
悪カラタダデ情報ガ得ラレルト思ウナヨ?」
くっ、父さんが戦ったほどの相手の使い魔?
父さんのことは知りたいけど・・・杖なしでどうにかなるとは思えない。
ここは一撃離脱で、なんとか凌ぐしか・・・。
カモ君に目配せすると、どうやら気づいてくれたらしい。
挑発とかするわりには、実はかなり冷静なカモ君だから、僕の判断は間違ってない。
後は、タイミングを見計らって・・・。

「ドウシタ?
コナイノカ?
ダッタラ、コッチカ・・・ギャフッ」
ドールが突然、真横に吹っ飛ばされる。
「ネギぼーずをいじめるなーっ!!」
「ふ、風香さんっ!?」
風香さんが見事な飛び蹴りをドールにくらわせていた。
「ネギぼーず、大丈夫?
どっか怪我ないかっ?」
「え、ええ、大丈夫ですけど・・・」
どうして、ここに?と尋ねようとした瞬間。
「クケケケケケケケケケケ!!!」
思わずぎょっとしてしまうほどの奇声で、一気に現実を取り戻す。
まずい!
風香さんだけでも逃がさないとっ!!

「クケ、アリャ、コレハ、制御ガ、効カナ、耐久性低スギダロ。
一撃デアウトッテナー。
アー、暴走スルー?ジェノサイドカー?」
いつの間にか、ドールは両手に持っていたはずの包丁をボウガンに持ち替えている。
その矢が射られた!?
射線上には・・・風香さんがっ!!
「デフレクシオ−!!」
無詠唱、杖無しで唱えたかなり弱い障壁が、その一撃を遮ろうとする。
弱くても、一矢ぐらいならなんとかっ!!
その瞬間、矢から漏れ出た紫色の光が障壁を破壊する!

「なっ!!
障壁破壊かよっ!?」
カモ君の声がえらく遠く聞こえる。
そんなことより、風香さんが・・・。
倒れこんで動かない風香さん。
動かない。
あのときと・・・同じ。
また、僕のせいでっ!!
杖のことも、父さんのことも、何もかも忘れて、ドールに向けて手をかざす。
「ラス・テル マ・スキル マギステル!
闇夜切り裂く一条の光
我が手に宿りて敵を喰らえ
白き雷!」
ドスン!と音が鳴り響く。
まだ、動いている。
これじゃ、呪文が長い、逃げられる。
「ラス・テル マ・スキル マギステル!!
闇夜、裂く、光
我が手より、敵を喰らえ
白き雷!!」
ズガン!と音が鳴り響く。
動いているかどうかは分からない。
長い、遅すぎる。
「ラス・テル マ・スキル マギステル!!!
光・手より・敵を喰え
白き雷!!!」
ドガァッ!!と音が鳴り響く。
ぜいぜいと息を荒げながら、もう一度・・・

「あ、兄貴!!
そっちはもう終わりっス!!
操ってた意識体も逃げ出したみたいですぜ!
それよりも、こっちっス!!
これはヒドイっス!!!」
え・・・?
僕、今まで・・・どうやって・・・??
「兄貴!!」
カモ君の言葉で、はっとする。
「風香さん!!」
慌てて倒れこんだ風香さんの傍まで駆けつける。
「矢を抜いて、直ぐに止血するしかないっス。
この嬢ちゃんくらいの元気さがあるなら、クーラ、治癒の魔法でなんとかなるかもしれねぇっスから。」
「う、うん。
風香さん、すいません、すごく痛いでしょうけど、我慢して下さい。」
そう一方的に言ってから、風香さんのお腹に刺さった矢を引き抜く。
矢が抜かれる痛みに耐えている風香さんは意識が朦朧としているのか、悲鳴を発する余裕もないみたいだ。
「ラス・テル マ・スキル マギステル!
汝が為に ユピテル王の 恩寵あれ クーラ!」
風香さんが持っていた杖をそっと受け取り、治癒呪文を唱える。
じわじわと傷が塞がっていくはずだけど、これじゃあ間に合わない・・・!

「くっ、思ったよりも傷が深いかっ!?
兄貴は回復呪文は得意じゃなかったからな・・・。
どうにかして、嬢ちゃんの自己治癒力を上げられれば・・・・。」
僕のせいだ・・・僕が・・・。
「そうだっ!!」
沈みかけた意識をカモ君の声が引っ張りあげてくれた。
「カモ君、何かいい手があるのっ!?」
「ああ、兄貴、パートナーの仮契約、パクティオーっス。
パクティオーした瞬間ていうのは契約者、被契約者ともに潜在的な魔力が放出されるんだ。
そのときだったら、兄貴の治癒でも最大の効果を発揮するはずでさぁ!」
昨日のキスが思い出され・・・ううん。
そんなこと考えている場合じゃない。
僕が出来ることで風香さんを救えるんだったら、やらないと!

「カモ君、魔方陣よろしく!」
「あいよっ!!」
カモ君が一瞬で魔方陣を描く。
僕は口の中で呪文を唱えながら、意識を失いかけた風香さんの唇にキスをした−。
「パクティオー成立っ!
今だ!!兄貴っ!!!」
ここからが本番っ!
「クーラッ!!!」
先ほどまでとは段違いに大きな光の奔流が生まれる。
風香さんの傷が一瞬にして塞がっていく。
僕はほっと息をついて、血色がだんだん良くなってきた風香さんの顔を見つめる。

「あ・・・ネギぼーず・・・?」
「風香さんっ?大丈夫ですかっ!?」
少しして、喋れるぐらいまで回復した風香さんの意識も戻ってきたようだ。
「うん・・・アイタタタタタ。
痛いよー、ネギぼーずー・・・。」
「風香さんっ!!
どうしてあんな無茶したんですかっ!?
もうちょっとで死んじゃう所だったんですよっ!!
包丁持ってたんですから、危険だって分かってたでしょう!!!」
風香さんは、ぱちくりと目を瞬かせた後、さも当然のように言ってのけた。
「だって、ボク、ネギぼーずのお姉さんになるって言ったもん。
弟を守るのは当然じゃん。」
「そ、そんなこと・・・、だって、僕のせいで・・・。」
「コラッ、ネギっ!!」
風香さんが僕に向かって怒鳴った。
大きな声を出して、痛そうに顔をしかめながら。
「お姉ちゃんが、弟を守るのは当然なのっ!
そこに理由なんてないし、理由なんて言ったら嘘っこなんだよ!
だから、ネギが気に病むことなんてないのっ!!」
じわり、と涙腺が緩んでしまいそうになるが、何とか堪える。
嬉しくて、そんなことさせてしまった自分が情けなくて・・・、でもやっぱり嬉しくて。

「あ、そーだ?」
突然、これまでと違った、いつもの口調で風香さんが僕に、にたりと笑顔を向ける。
「ネギぼーず、それはともかく、ボクの初めてを奪ったんだから、責任は取ってもらうからねー?」
(続く)