「無題01」

私が目を覚ますと、太陽が昇っていた
太陽は燦々と輝いている

太陽は照らす
まるでその存在を誇示するかのよう

誰も太陽から意識を逸らせない
誰かが、
朝は涼やかな太陽も、昼も過ぎれば鬱陶しい、
とぼやいた

私はその言葉を聞いた
見上げて、眩しくて目を閉じた


気づくと、太陽が沈んで月が昇ってきた
月は煌々と輝いている

月は照らす
まるでその存在を誇示するかのよう

誰も月から意識を逸らせない
誰かが、
夜道を照らす月も、満ち欠けするので鬱陶しい、
とぼやいた

私はその言葉を聞いた
見上げて、切なくて目を逸らした



涼宮ハルヒの憂鬱SS 「無題」


・・・何だコリャ?
まさしく、ソレを始めに見た俺の感想がそれだ。
ソレそれ言ってて、判りづらいかもしらんが、
俺だって良く分かってない。
おあいこだし、勘弁してほしい。

・・・そう言うものでもないか。
まぁ、つまり、最初の『ソレ』は「無題01」とやらのことで、
次の『それ』は一行上の俺の感想のことだ。
そもそもどうして俺が「無題01」とやらを見ているのかというと、
まぁ複雑とは言えないが、とある事情があったりする。


俺が何時ものように帰巣本能を発揮したかの如く、
部室、いや団室か?、にやって来たときのことだ。
そこには俺より先に教室を出たはずのハルヒを含め、誰も居やしなかった。

俺はコレ幸いにと普段は出来ない、
愛しのみくるフォルダを整理するためにいそいそとPCを立ち上げた。
冬までも細々とファイル数は増やしていてはいたものの、
十数枚くらいしかなかったんだがな。
が、ノートPCが手に入ってからは、
その上昇率は鰻上りで最早200枚に届きそうな勢いだ。

・・・何しろ、ハルヒに覗かれる危険性が小さくなくなったのが大きい。
かと言って増やすだけで手一杯で、整理する時間がそうそう取れるわけでもない。
増えれば増えるだけ何処にどの見目麗しい姿が収まっているかが、
分からなくなってきたと言う弊害があったわけだ。

それでもどの写真も感涙するほど素晴らしい、
朝比奈さんの写真であることに違いはない。
まぁいいかで済ましてきたものの、
それでも、いつか整理してやろうという、
野望だけは持っていたというわけだ。


この機会を逃すまいとして、
一秒でも早く作業を行おうと、ハードディスクの奥深くに存在する、
みくるフォルダがある場所まで辿り着いたのだが。
・・・その、よりにもよって隣にあったのだ。
謎の「無題01」ファイルは。

ワープロソフトとして世界一有名な、
某オフィスソフトが入っているノートパソコンであるにも関わらず、
「.txt」という拡張子がついたいたそのファイルは、
まるで俺にだけ見て欲しいかのように、そこにあったと言うわけだ。

まぁ、そんな「無題01.txt」などと書かれたファイルなど、
俺だって普通は開けたりはしない。
特にメールに添付されてたりしたら絶対な。

が、ハルヒが憤慨したらしき文芸部の会報にあった、
長門の「幻想ホラー」を思い出してしまい、
居ても立ってもいられなくなった。
それでついつい開いてしまった文章が、
またこんな言葉でスマンが、ソレだったわけだ。


不意に疑問に思った。
これは誰が書いたんだろう?
取り敢えず、この文章を書いた犯人を特定してみることにした。
ハルヒ。
ありえん、次だ。

朝比奈さん。
まぁ、もう1人の朝比奈さんならありえるかもしれんが、
さすがにみくるフォルダの横には置かんだろう、常識的に考えて。

古泉。
そんな可能性はありえなし、もしそうならリテイクを要求するね。

長門。
「無題」というタイトルと言い、何言ってんだか良く分からん書き方といい、
人のパソコンに勝手にものを置くことが出来る手腕といい、
やっぱりコイツ以外に犯人は考えられんか。

強いて言えばコンピ研部長以下、部員たちも出来るかもしれんが、
こんな謎文章を送りつける理由が分からんし、
そっちもやっぱりリテイクを要求する。
・・・まぁ、仮に長門が犯人とするなら、
どうして送りつけたのか、なんてことも想像すら出来んわけだが。


もう一度、今度はしっかりと読み返そうとしたときだ。
ハルヒのドタドタという、いかにも腕白な足音が聞こえてきた。
俺は慌てて文章を閉じて、さりげない風を装ってインターネットを立ち上げる。
その直後に部屋に入ってきたハルヒには・・・良し!
気づかれてはいないようだ。

いつものように、元気一杯に挨拶しながら部屋に飛び込んできたハルヒだが、
俺以外の姿が見えないことを悟ると、
いかにも、『こいつだけなら挨拶することもなかったか』と言った、
ダルそうな表情で俺に向かって近づいてきた。

そのまま、俺のノートPCをちらりと覗き込んできたが、
俺自身どーでもいい、この地方ではない天気情報はお気に召さなかったらしい。
すぐに団長席についてふんぞり返ってしまう。


その後、続けて朝比奈さんと古泉も来てしまったので、
先ほどの文章を読む機会は失われたかと、ふぅとため息を吐いた。
こういうときはプリンターが欲しくなるぜ・・・。
穏やかな笑みを浮かべていた朝比奈さんが
そんな俺を見てきょとんとした顔をしていた。
・・・やっぱり朝比奈さんじゃあないみたいだな?

心配させてしまったのか、
朝比奈さんが俺に向かって口を開きかけたとき、
「キョン、有希は?」
というハルヒの言葉が割り込んできた。
俺は軽く首を振って知らんという意思表示をしてやる。

が、一応聞いただけだったのか、どうでもよさそうではあるな。
続けて朝比奈さんが口を挟むよりも速く、ハルヒの追撃が襲い掛かってきた。
「みくるちゃん、お茶よろしっくー!」
「・・・はぁい。」
と言う短いやり取りで、朝比奈さんはすごすごとポットまで引き下がって行った。
俺もお願いします、と伝えると、
さらに背中が寂しそうになってしまった。
ちょっと罪悪感を感じてしまうな・・・。


そんなこんなで、いつものように、だらだらと時間を潰していた。
俺は古泉と外国製らしき良く分からんボードゲームに興じていたし、
ハルヒは朝比奈さんと珍しくも紅茶について談笑している。
そんな時間が30分も過ぎた頃だろうか。
長門が、部室に入ってきた。

文芸部室の扉がガラガラと開く音で振り向いた俺は、
思わず長門の表情をじっと見つめていた。
『あの文章を書いたのはお前なのか?』
という念を充分込めて送ったのだが、長門の表情はぴくりとも動かない。

本棚までふらふらと移動しどう見ても適当に本を一冊つまみ出し、
いつもの所定の場所に着くや否やその分厚い本の表紙をめくる。
思わず首を傾げてしまう。
・・・お前じゃないのか?

集中を乱した隙に古泉に手ひどくやられてしまい、
その後は劣勢分を取り戻すのに必死になってしまった。

だから、すっかり怪文書のことは記憶の彼方だ。
なにしろ、思い出したのは、次の日だって言うんだから、
まったくもってどうしようもない。



その思い出したきっかけは単純だ。
つまり、翌日の放課後、再びパソコンを立ち上げたときだった。

部屋に入ると誰も居なかった。
デジャヴを感じながらも、ノートPCを立ち上げる。
起動音を鳴らして立ち上がったPCのデスクトップ上には、
昨日思わず消し忘れていたフォルダが開きっぱなしになっていた。

すわ、みくるフォルダ、開けっ放しだったのかよっ!
と俺は慌ててフォルダを覗き込んだ。
そこで俺は思わず絶句した。
昨日有った、『無題01.txt』の隣に、『無題02.txt』があったのだ。
こりゃ、一体何の冗談だ?
俺は震える手で、その見覚えのないファイルをクリックする。
軽さだけが売りのようなテキストフォルダがあっさりと開く。
間の全く感じさせないこの軽さに、幾分かほっとする。
下手に間が空くと余計なことばかり考えちまうからな。


俺は、好奇心に踊らされるように、ソレに目を向ける。
ふと、古泉の言葉が蘇る。
『文章にはその執筆者の内面がわずかでも含まれる』
・・・だったっけか。
俺は、この文章を書いた人物の心でも知りたいのかね。
ま、そんなことは読んでから考えるさ。



「無題02」

私は、太陽に憧れた
私は、月に憧れた

幸いにして、私は太陽に届く翼を持っていた
不幸にして、私は月に届く翼を持っていた

それでも
かの神話の如く、私は燃えてなくなるのだ
そして、ワタシが生まれるのだ
ワタシは、私に成り変わる

太陽から生まれるワタシ
月から生まれるワタシ


それとも
誰かは、
ああ、キミは君のままで居て欲しかったと、
嘆いてくれるのだろうか

私は、それが知りたい



・・・分からん。
取り敢えず分かった事と言えば、
俺には文章を読み解く才能があまりないんじゃないか、ということだな。
嬉しくはないが。

俺が頭を抱えていると、
昨日とは違い、初めに古泉が部屋に入ってきた。

・・・こいつも巻き込むか。
これ以上は自分だけではどうしようもない。
ここは猫の手よりは優秀そうな知恵を借りようと、古泉に声を掛ける。
ちょっとそこまで付き合ってもらえるか?

古泉は、いつものニヤケ面を軽く竦ませながら、

「ええ、構いませんよ。」
と言うと、ほんの10秒ほど前に開けたばかりのドアを再び開け放つ。

すまんな、などと言いつつ俺はノートPCのアダプタを引っこ抜く。
しかし、古泉は何の用事かも聞かずに即答しやがったな・・・。
ま、都合はいいんだし、気にすることでもないな。


「それで、お話とは何ですか?」
人目につき辛い屋上に通じる階段の踊り場まで着くと、
古泉は単刀直入に切り出してきた。

そう慌てるな。
まずは、コレを見てくれ。
俺はそう言って、ここまで持ってきたノートPCを古泉に差し出した。

「パソコン、ですか?
・・・おや?
詩のようですが、貴方が?」

そんなわけはない。
取り敢えず、2つあるから読んでくれ。
俺は古泉の勘違いにウンザリとしながらも、読むことを促した。

古泉が、ノートPCに目を向ける。
1つ目を読み終わると、しばらくの間考え込んでいたが、
2つ目が終わると、なるほど、と言った顔になった。

くそ、コイツ理解しやがったのか?
なんだか、ヤケに悔しいな。
・・・いや、意味が全く分からん今までの状況よりは良いんだが。
1人の男としてプライドがな。

古泉は俺にPCを返すと、
まるで、どこぞの探偵のように額に手を当てて、顔をうつむかせる。
下手な演出はいらんぞ?

「いえ、そういうわけでは・・・くっくっく。」
・・・笑ってやがったのか。
一体なんだって言うんだ、全く。

失礼しました、と一度断りを入れてから、
古泉の解説が始まった。

「単刀直入に言って、これは『私』という人物の心を表している文章のようですね。」

そりゃそうだろう。
実は縦読みだ、とか言われたら俺は暴れるぞ?

「1枚目と2枚目で、『太陽』『月』は別の事柄を指しているようですね。
おそらく、1枚目では『太陽』『月』とは人間を表しているのでしょう。
非常に魅力的な人間をそのように例えている、と考えられます。
また、『誰か』というのは、『私』に大きく影響を与えている人物のようです。
『誰か』に言われて、『私』は『太陽』『月』と向き合うことが出来た。
・・・そう読み取れます。」

長々と続く古泉の説明を聞いているうちに大分話がまとまってきた。
なるほどな。
で、最後の一文は何なんだ?

「ですが、『私』は自身を『太陽』『月』と比べて魅力がないと感じている。
だから、『私』はそれらから意識を逸らしてしまう、
いじらしいものではないですか?」

古泉の最後の言葉は敢えて無視して続きを促す。
2枚目は?
同じような感じか?
恐らく、そうだろうと言う考えはあるが、確認のため問いかけてみる。

「まぁ、そのままですね。
ここでの『太陽』や『月』は人格、あるいは性質を示しているもののようです。
そんな性格になりたいが、そうすると今までの自分では無くなってしまう、
ということでしょう。
その上で、どちらが良いか尋ねているようですね。
『誰か』に向かってのようですが。
・・・まぁ、誰に向かって聞いてるかというのは、疑いようもありませんが。」

・・・分かった、もういい。
それ以上は言わんでいいぞ。
さすがにここまで聞いて分からんほど、アホじゃないつもりだ。
とは言え、ほとんど答えと言ってもいいようなところまで、
古泉に聞いてしまった時点で大失態には違いない。

が、それでもさすがに結論ぐらいは俺が出さんと、
この文章を送ってきた相手に対して申し訳が立たんからな。

「そうですか。
機関としては、涼宮さんの機嫌を損ねるような真似はしてほしくはありません。
が、今回は目をつぶっておきますよ。」

・・・もしかして、ソレはアレか?
機関に背いても云々とかいう奴か?
古泉の珍しい発言に思わず目を見開いてしまう。

「いえ、そうではなく、単純に何も見ていなかったということです。
僭越ながら、超能力者を自称していますが、
透視能力などがあるわけではありませんしね。
貴方の胸の内など知るよしもありません。」

苦笑しながらも、古泉は真面目な口調だ。
それだけ、アイツに対しては力を貸してやりたいと思ってるのかもな。
透視能力云々については・・・時々疑わしくなるが。

「おや、疑いになりますか?
そうですね、それはまたの機会ということでお願いします。」

そんな機会は必要ない。
というわけだ。
何も言わなかったが、つき合わせて悪かったな。
ちょいと俺は出てくる。
ハルヒには適当に誤魔化しておいてくれ。
そう言って、ノートPCを古泉に押し付ける。

「いえいえ、話なんてなかったのに時間取らせやがって、などとは思っていません。
せいぜい涼宮さんが心を乱さないよう、
適当な言い訳を考える時間が得られた幸福にほっとしておきますよ。」

そうか、ま、ハルヒの相手はいつものことだしな。
俺が苦笑すると、古泉も苦笑で返してくる。

「ええ、全く。」

じゃあスマンが、今日は自主休暇だとハルヒには伝えておいてくれ。
言うが否や、そのまま俺は走り出した。
恐らく、アイツはあそこに居る。



俺が向かった先は、学校の校門だ。
放課後になったばかりで人通りが激しすぎるはず、なのだが。
半径5mほどの空間が何故かぽっかりと開いている。
俺は当たりを引いたことを悟った。

何故なら、その中心には、12月の同じ夜に2回も訪れたその場所には、
ソイツが呆然と突っ立ていた。
後ろを向いたソイツは俺に気づいているのかいないのか、
超能力者でも
宇宙人でも
未来人でも
神様でもない俺には分かりかねるが。

全く、俺がメッセージの意味を解せないアホだったらどうするつもりだったんだ、
と古泉からかなりの助言を貰ってようやく意味を理解したことを棚に上げて、
そんなことを思う。

大体にして、昨日だって・・・って、待てよ?
こいつはもしかしたら、昨日も待っていたのかもしれん。
まったく、回りくどい事をする。
いや、正解に気づかん俺が悪いのか?

その辺りに議論の余地はあるが、
俺の態度がコイツのバグの原因の1つであることは確からしい。
すまんな、何度も迷わせて。

世界を改変した後のお前にしか、直接は言ってなかったもんな。
俺がどう思っているか、
俺の気持ちを、今のお前にきちんと伝えるべきだったよな。


俺は、ふぅ、と息を吐いてから、ゆっくりとそいつの名前を口にした。
「長門、待たせたな」
長門は、振り向かない。
きっと俺の選択を待ってるんだろう、自惚れかもしれんが。
少なくとも俺は、お前のためなら、
どんな恥ずかしい台詞でも大真面目で言ってやる準備は出来てるんだ。

「俺はそっちのお前じゃなくて、今までの長門が好きなんだ。」

ぴくりと長門の肩が揺れる。
動揺の気配が伝わってくる。

「それにな、眼鏡はないほうがいい」

何かが落ちる音。
それが何かは考えるまでもないが、落ちたソレは砂になって消えた。


そして、ソイツが俺のほうへゆっくりと振り返った。

振り向いた『いつもの』長門は、確かに微笑んでいた。
・・・ま、少なくとも俺はそう思ったね。



「無題03」

誰かは私を選んでくれた

私は私のまま
ワタシにはなることはない

ワタシになるための翼は、砂になって消えた
もう、太陽には届かない
もう、月には届かない

それでも、私がワタシになることを望むのだとしたら


望んで、
努力して、
変わっていくことを貴方は許してくれますか?

(END)