物語ってやつは大抵、朝に始まるもんだって、どこかで聞いたことがある。
得てして、これから起こる出来事は、冬休みも終わりに近づいた朝が発端だった。
具体的には、昼過ぎまで惰眠を貪ろうと企てていた、
俺の意志をあざ笑うかのような音が部屋に響き、目を覚ますはめになったのが始まりだな。


・・・目覚ましか?
いや、目覚ましなどセットした覚えは無い・・・、ということは電話か。
寝ぼけ眼をこすりつつ、携帯電話の液晶画面を確認すると、案の定だ。
これが、朝比奈さんからのモーニングコールなら、すぐさま目を見開いて静聴するところだったが。
残念ながら、団長殿からの電話だったようだ。
まぁ、聞かなくても内容は分かりきっているのだが・・・。
出なけりゃ出ないで五月蝿いからな。

−もしもし?
「おっそいわよっ、キョンっ!
休みだからって弛んでるじゃないでしょうねーっ!!
団長からの電話は3コール以内に出るのが基本でしょ、基本っ!!!」
やかましい。
文句を言いたいだけなら、切るぞ。

「ばっかねーーっ、そんなわけ無いでしょ!
面白いものを見つけたから、今日は有希の家に集合よっ!!」
えらくハイテンションだな?
ハルヒのテンションが上がるにつれて、
俺のテンションが相対的に下がっていくというデータが出てるんだが、それについてはどう思う?
「どうでもいいわよっ、そんなこと!
それより、さっさと来なさいよっ!!
もうみくるちゃんと古泉君にも連絡入れてあるんだからっ!!
分かってるのっ、キョンっ!!?」

・・・どうでも良いとはヒドイな。
が、確かにどうでも良いという意見には実は俺も賛成だ。
で、だ。
俺に拒否権はあるのか?

「だから、さっさと来なさいっ!!
どうせ、今日も寝て曜日だったんでしょっ!?
むしろ誘ってあげたことに対して、五体投地で感謝の意を示すべきよっ!!!」
俺は、どこぞの修行僧か。
まぁ、いい。
残念なことに俺の予定はハルヒの言った通りだ。
谷口や国木田と遊ぶなんてことより、朝比奈さんや長門の顔を見ていた方がよっぽど建設的だしな。


涼宮ハルヒの憂鬱SS 涼宮ハルヒの初夢


で、だ。
ハルヒの『さっさと』を、起きぬけの俺が実現させるのには約1時間掛かったわけだが。
長門の部屋の前まで辿り着くと、既に全員集まっているらしく、部屋の中がわいわいと騒がしい。
・・・この近所迷惑ぶりは、一度嗜めた方が良いかもしれんな。
もの静かな長門がご近所さんに騒がしいと注意されてしまうのは、あまりにもシュールだぞ。
そんなことを考えながら、チャイムを鳴らす。

がちゃ、とドアを明けて俺を迎えた顔は、予想を裏切るものだったわけだが。
「やぁやぁやぁ、キョン君っ、よく来たねっ!!
とは言っても、ここは私の家じゃあないんだけどねっ!
まぁまぁ、取りあえずお上がり、お上がり!」
・・・鶴屋さん?
珍しいですね、長門の家に居るなんて?

「いやー、みくると遊んでたら、ハルにゃんに誘われちゃったにょろ!
SOS団に混ざるのも悪いと思ったんだけど、人数が多い方が面白いゲームだからって、ハルにゃんに説得されちゃったら断る理由はないからねっ!!」
そう捲し立てるように喋る、鶴屋さんの後ろについて居間に入る。
以前に比べると物が増えたとはいえ、相変わらずほとんどモノのない部屋だな。
そんな部屋の中央に鎮座するコタツの上に、まぁ、これがハルヒの言う、『面白いもの』なんだろう、大きめの卓上ゲーム盤がでん、と待ち構えていた。
そして、上座に当然のように座っている我らが団長の姿と、その横に執事のように控える古泉の姿も見える。

そして、台所から、湯のみを5つ持って現れたのは、あなたに会うために今日は来たと言ってもいっても過言ではありませんよ?
朝比奈さんの神々しいまでのお姿だった。
「あ、キョン君、おはようございます。
キョン君には私の分のお茶を・・・。」
「大丈夫。
・・・これ。」
そう朝比奈さんの声を遮って、同じく台所から1つの湯のみを持って、長門が現れた。
で、この差し出された湯のみは、俺に飲めっていうことか?
「そう。」
・・・まぁ、いい。
これが、ハルヒの差し出したお茶なら、何か入っているんじゃないかと疑うところだが、長門が何か入れるわけもないしな。
長門がくれた湯のみを片手に持ちながら、適当に開いている場所からコタツに潜り込む。

「よーやく、来たわねっ!キョンっ!!
1時間もかかるなんて、少し遅すぎよっ!?
・・・それにしても、有希もキョンに少し甘いわよね。」
何か言ったか?
「何にも言ってないわよっ!!?」
喚くな、近所迷惑だぞ。
「五月蝿いっ!遅刻してきた癖に生意気よっ、キョン!」
そんなハルヒの喚き声をBGMに長門が入れてくれたお茶をずるずると飲む。
お、春先のヤツより大分上達してるな?
「・・・そう。」
そう言って、長門が俺の隣の位置に座る。
ま、心なし嬉しそうな表情だから、良しとするか。

「涼宮さん、全員揃いましたんで、そろそろご説明を頂けますか?」
古泉の声に、長門が座ってから、さらに俺に対してびしびしと敵意を飛ばしていたハルヒが、我に返ったように手をポンと叩いた。
「それも、そーね。
キョンはゲーム中でオシオキだからねっ!!」
・・・どうやらオシオキ決定らしいが、俺が何をした?
ハルヒの号令で、お茶を配っていた朝比奈さんと、その手伝いをしていた鶴屋さんの2人も揃って仲良くコタツに入る。


最後に古泉が座るのを待ってから、ハルヒの演説が始まった。
まぁ、簡単に言うと今日の明け方、変な夢を見たらしい。
その夢で謎の生物から、ハルヒは猫神とか言っていたが・・・、貰ったのがこの卓上ゲームらしい。
で、目を覚まして、新聞を取りに行ってみたら、家の前に本当にこのゲームが落ちていたという顛末なんだが・・・。
「それで、そのとき思ったのよ。
正月になって、まだスゴロクってしてなかったなぁ、って。
だから、スゴロク代わりにコレをやろうって。」
・・・おいおい、スゴロクをやるのがイヤだとは言わんが、こんな得体の知れないものを拾ってくるなよ?

「なんでよ?勿体無いし、あの夢はきっと正夢よっ!!
春先のあの夢と同じで・・・?」
ん?なんだ、こっちをじっと見て?
お年玉ならやらんぞ?
「・・・見てないわよっ!それにいるかっ!!
バカキョン!!!」
何怒ってやがる・・・?
「ヤレヤレですね。」
古泉、俺の台詞をパクるな。

「ま、まぁ、キョンはこの際どうでも良いわよっ!
それよりもコレよ、コレっ!!」
「・・・」
・・・ん?
長門よ、このハルヒが拾ってきたいかにも怪しげな物体に興味があるのか?
さっきから、随分気にしているようだが。

「でも、コレすごく立派ですよー?」
「本当だねっ!
いやー、まだまだ使えるのに、簡単に捨てちゃうなんて、マナーがなってないにょろ!」
朝比奈さんと鶴屋さんは、よく見ると結構立派なつくりのゲームを見て、しきりに感心しているだけのようだが・・・。
長門、お前もそうなのか?
「・・・ちょっと。」
そのとき、俺の隣に座っていた長門が俺の裾を引っ張ってきた。
俺が立ち上がると、そのまま廊下まで連行されて行ってしまう。


なんだ、長門、一体どうしたって言うんだ?
コタツから出ると寒いからな、早く用件を頼む。
「あの卓上盤は、地球上のあらゆるゲームと呼ばれるものに該当しない。
全くの未知のもの。
涼宮ハルヒの力によって生み出された、あるいは、それに類するような力で作られた、と考えられる。
どちらにしろ、普通のものではない。」
・・・なんだと?
さすがに一遍に寒さが吹き飛んだ。
朝比奈さんはそのことを・・・、いや、あの調子じゃあ、知るわけも無いか。
古泉も気づいていないようだしな。
それじゃあ、長門よ、どうするつもりだ?

「しかし、実害を与える目的のものでは無いと推定される。」
年末の山荘のようなことは無いってことか?
「そう。
涼宮ハルヒの力によって生まれたものならば、彼女や貴方に危害を加えるものであるはずがない。」
まぁ、そりゃそうだろうが・・・。

「そして、そうでなかった場合についても、あのような機能で実害が及ぶことはないと断言する。」
断言?
長門がそこまで言うなら安心か。
・・・というか、長門よ。
アレの機能が何なのか分かっているのか?

「アレは一種の願望機。
その限定版。」
スマン、分かりやすく頼む。
「動いたマスに書いてあることが本当に起こるということ。
全てのマスを確認したが、ゴールが出来ない仕様にはなっていない。
また、大怪我や死に繋がるような直接的な項目がある箇所も存在しない。」

・・・なるほどな。
で、それを俺に知らせる必要が別にあったのか?
「それは、盲点。」
まぁ、いいさ。
取り敢えず、長話になっちまったからな。
戻ろうぜ。
「分かった。」


こくん、と頷いた長門を引き連れて、再び部屋に戻る。
部屋に入った瞬間、鶴屋さんがぱたぱたと手を振りながら、迎えてくれる。
「やーやー、キョン君っ!
随分、長い逢引だったにょろねっ!!」
「あ、あい、あいびっ・・・あいたー、舌かんじゃいましたー、ううう。」
「ああ、みくるっ、大丈夫かい?」
唐突にとんでもないことをおっしゃった鶴屋さんは、既に朝比奈さんの可憐な舌の具合に興味が移ってしまい、
俺の突っ込みも虚しく空を切ることしか出来ないぜ。

「へー、そう。
キョン、あんた、随分調子に乗ってるわね?」
・・・というか、ハルヒ用にフォローは入れて欲しかったぜ。
仕方がないから、自分で入れるが。
・・・誘ったのは、長門だったんだがな。

「うっさいわねっ!!
以前も言ったけど、有希に手出そうとしたら、確実死刑だからねっ!!」
物騒だな、相変わらず。
「五月蝿いっ!
それより、有希!!
キョンに嫌なことされたら、直ぐに私に報告しなさいっ!!?」
「何も嫌なことはされてない・・・平気。」
・・・その発言もどうかと思うぞ、長門よ。

「おおっ、有希にゃん、言うねー?
ハルにゃん、大ピンチにょろっ!?」
鶴屋さんは朝比奈さんの麗しい舌に傷が残ってないか、きちんと確認しておいてください。

「べ、別にピンチなんかじゃないわよっ!!
それより、コレ、さっさとやりましょっ!?
ほら、順番用にくじ作ったから、さっさと引きなさいよっ!」
ずい、と俺の目の前に突き出されたくじを、適当に1枚引く。
俺に続いて、残りのメンバーも次々とくじを引いていった。

で、結果だ。
こんなゲームの順番なんて、どうでもよいとは思うが、一応な。
1番、俺。
2番、ハルヒ。
3番、朝比奈さん。
4番、鶴屋さん。
5番、古泉。
で、ラストが長門か。
・・・俺と長門の順番が一番離れたのは、何か陰謀めいたものを感じるが、どうか。


そして、ゲームが始まった。
とはいえ、一番である俺からだから、始まる、と言ったほうが正確かもしれんが。
1個のサイコロをころころと転がして、進むマスの数を決めて、書いてある指示に従う。
そして、1番にゴールした人の勝ちという、まぁ、単純なつくりのゲームだな。
・・・ま、問題はマスに書いてある内容が見えないって点なんだが、長門が全部確認したんだから、大丈夫だろ?

ん、6か。
なかなか幸先の良いスタートを切れたようだな。
俺が6個マスを進めると、突然ゲーム盤の上空に文章が浮かび上がった。
うをっ!!
思わず、後ずさってしまったが・・・。
なるほどな、確かに普通のゲームではなさそうだぜ。
ようやく実感が湧いてきたというか、なんと言うか。

「すごいですね・・・」
「うわー、面白いですー。」
無邪気に喜んでいるマイ天使と、その他1名はあっさりと状況に馴染んでいるな。
・・・朝比奈さんはともかく、古泉は長門が俺と出て行ったときに、こういうものかもしれないと当たりをつけたのかもしれんな。
それぐらい、動揺した感じが見られないぜ。

で、残りの2人はというと。
「ぶわっはっはっはは!
キョン、早速スタートに戻るだって!!」
「っひ、ひーひー、キョン君、おいしすぎるにょろっ!?」
・・・って、俺のマスはスタートに戻るかよっ!!
というか、笑いすぎです。
主にハルヒ!!

「だって、普通、いきなりスタートに戻るとかありえないじゃんっ!
キョン、あんた、今日輝いてるわよー!」
うっさい。
で、確認するぜ。
俺のマスの指示は・・・
『スタートに戻る。そ・・・』


そこまで呼んだところでフッと空中に浮かんだ指示が消える。
・・・おいおい、まだ読んでる途中だったんだが。
「うっさいわねー、さっさとマスをスタートに戻しなさいっ!」
どうやら、次の人がサイコロを振ってしまうと指示が消えてしまうようだな。
取り敢えず、ハルヒも6を出すように念でも送っておくか。

「4ねっ!」
ちっ、外したか。
後は、マスの指示が碌でもないことを祈るだけだが・・・。
『スタートに居るコマを1つ1回休みに出来る。』
嫌な予感がびしびしするぜ。

「じゃあ、キョン、1回休みねっ!」
くそ、少しは悩む素振りを見せろよな・・・。
「皆、まだ1回もプレイしてないのに、いきなり休みなんて可哀想じゃないっ!」
確かにな。
ま、別に1回休みぐらいいいさ。
というか、どんなマスがあるのか、把握するために都合いいかもしれんしな。

続けて、朝比奈さんの番だ。
「ええぃ!」
可愛らしい掛け声とともに、ころころと転がるサイコロ。
別にサイコロを投げるときに掛け声を掛ける必要はありませんよ?
・・・まぁ、可愛いから許します。

「えぇっと、これは・・・1ですね。」
朝比奈さんらしいというか、なんというか。
で、指示は・・・。
『あるキーワードが唱えられるか、ゲームが終了するまで、異空間に閉じ込められる。』
・・・は?

と思った瞬間、朝比奈さんが、まるで蜃気楼のように、薄く薄くなって消えていく。
「ま、また、私、出番終了ですかーーーーっ!!?」
・・・さらば、朝比奈さん。
「朝比奈みくるの退場は予想通り。
問題ない。」
・・・長門よ。
確かに予想通りだろうが、問題が無いわけではないだろ・・・?

「いやー、コレどういう原理なのかしらっ!
最近のおもちゃは進んでるわねーっ!?」
「本当にょろ!
どう見てもみくるが消えたようにしか見えなかったさ。
めがっさ凄いにょろねっ!!」
こっちの2人を含め、誰も朝比奈さんを心配してなさそうだぜ。
・・・俺は無論、心配しているが?
念のため、言っておく。

「次は私の番にょろっ!!」
何事もなかったかのように、鶴屋さんがサイコロを振りかぶる。
すごい勢いで転がされたサイコロの目は・・・5か。
「いーち、にーぃ、さーん、しーぃ、ごー!
で、どうにょろ、どうにょろ?」
『100万円貰う、もしくは5マス進むことが出来る。』
・・・ひゃ、100万円っ!?
「じゃあ、5進むさっ!!」
って、即答でそっちかよっ!!!

5番目は古泉。
こいつは何気なく、こういうゲーム好きだからな。
いつもと変わらないにやけ面の下では、結構楽しみにしてるのかもしれん。
「3ですね。」
古泉が自分のコマを動かすが・・・、しっかし、見事に全員バラバラだな。
『ゲームオーバー』
いきなりゲームオーバーかよっ!
「これは・・・残念ですね。」
普通に残念そうだな、古泉よ。
だが、俺には目標が出来たぜ?
次は3出すようにしよう!
「キョン!
ワザと3出そうとしたら、潰すからねっ!!」
ちっ、お見通しか。
ていうか、潰すって何をだ。

で、長門の番だ。
無造作に振られたサイコロの目は・・・2。
長門がさっくりとコマをマスまで移動させると同時に、空中に指示書きが浮かび上がる。
6回目ともなると、さすがに慣れたもんだ。
『ハッピーマテリアル(5月バージョン)をオリジナル笑顔で踊る。』
・・・長門が凍りついたような気がしたが、まぁ、見なかったことにしよう。
長門はぎこちなくも、オリジナル笑顔?らしきものをいつもの無表情の上に浮かべて、踊っている・・・が。
その表情に気づくのって俺ぐらいだと思うぞ?
しかも、途中から鶴屋さんに、
「エヴァにゃんは譲れないにょろ!!」
などと言われ、乱入されるしな。
鶴屋さんは完璧な歌と振り付けを披露してくれたんだが・・・・。
これだけは言わせてくれ。
鶴屋さん、知らない人にとって、中の人ネタはホント意味不明なんで避けて下さい。
ていうか、代わりに謝っとく。
申し訳ない。


で、こんな調子でもう15巡だ。
現在、トップは鶴屋さんだ。
5か6しか出ないアホみたいな強運ぶりで、さくさくと盤の終盤に差し掛かっている。
しかも、鶴屋さんの止まるマスはいい事づくめでひどく羨ましい。
2番手はハルヒ。
ハルヒのコマはひたすら他人のコマを戻したり、1回休みにさせたりばかりで、その分が鶴屋さんとの差になっている。
なんと言っても、トップの鶴屋さんを攻撃しないで、俺ばかりを集中攻撃しているからな・・・。
そんな俺は、まだスタート地点にいたりする。
ハルヒよ、俺が子供だったら泣き出してもいい所だと思うぜ?
そして、長門だが・・・、こっそりと怒っているのが俺には伝わってくるぜ。
2巡目以降、結局6回連続ハッピーマテリアルだと思ったら、その後は次から次へと特殊としか思えない衣装に着替えさせられてるからな。
ちなみに、今の長門の格好はスクール水着(旧型)だ。
視線の先が困ることこの上ないな。
最後に、古泉は買出し中だ。
どうでもいいことだがな。

そんなこんなで、15巡目も最後の長門の番となった。
「・・・5。」
長門が5マス、自分のコマを移動させる。
『園児服になれ。』
非常に簡潔な指令に長門がすっくりと立ち上がる。
衣装は勝手に変わってしまうから、用意する手間とか、着替える手間がないのは助かりもんだが・・・。
俺がそんなことを考えていると、長門が口の中で何かをもごもごと言っているのが・・・。
って、長門!
呪文は禁止だっ!!?
いい加減、我慢の限界に来ていたらしき長門の口を俺は押さえようとした。
が、立ち上がろうとした瞬間、コタツに足を引っ掛けて俺は長門に体当たりをかましてしまった。

す、すまん、長門、大丈夫か・・・?
もんどり打って、瞑っていた目を開いて状況を確認すると。
目論見適わず園児服になった長門を、押し倒さんとしているようにも見える俺がいた。
俺が、何かをするよりも速く。
その瞬間に、ハルヒの見事なけりが俺に突き刺さる。
鶴屋さんは、もう抑えられないといった感じで、げらげらと笑っているし。
・・・って、やばいな、無口のハルヒは本気だ。
おい、長門、お前もハルヒに誤解だって・・・、って、長門もマジ切れか?
こいつは割りとピンチかもしれんな。
こ、困ったぞ?

「お困りですか?
困ったときは即解決☆
まじかる☆みくるん、だよ〜〜〜ん♪」
あっ、朝比奈さんっ!?
どうしたんですか、その格好はっ!?
なんか、ピンクでふりふりで、数世代昔の魔法少女のような・・・?
って、キーワードは『困った』だったんですかっ!!?
ええぃ、突っ込み所が多すぎだぜっ!

「えへへっ、そうみたい。
でもね、朝比奈さんじゃないんだよ。
まじかる☆みくるんだよっ、キョンちゃん?」
キョ、キョンちゃん?
「この格好のときはキョン君のことはちゃん付けで呼ばないとダメだって、まじかる☆師匠が・・・。」
し、師匠ですか・・・。
「うん、そうだよ〜。
で、キョンちゃんは何にお困りなのかな〜?」

って、そうだ!
ハルヒと長門がっ!?
・・・なんかさっきよりも機嫌が悪化してないか?
というか、俺が悪いのか!?

あ、あの2人を落ち着かせてくれ!
「わかりましたー。
ぴんぷるぱんぷるろりぽっぷん、そーれ、にゃ☆う〜ん。
涼宮さんと長門さん、静かになーれ!」
おおっ、何か凄いぞ?
「あ、あの、涼宮さん、長門さん、キョンちゃんを許してあげてくれませんかっ?」
って普通に説得ですかっ!?
「あーーーーはっはっはっは、みくる、サイコーーーー!!」
・・・楽しそうですね、鶴屋さん。

さすがのハルヒも突然の朝比奈さんの登場+がっくりくる説得に毒気を抜かされきったのか、
「ま、まぁ、いいわ、キョン!
有希にちゃんと謝りなさいっ!」
と言って、座り込んだ。

あ、ああ、その通りだな。
長門、スマンかったな。
「・・・別にいい。」
あまり納得してるようにも見えんが、蒸し返すのもアレか。
さっさとこのゲームを終わらせて、禍根を断つのが一番か?

で、そんな決意をしてもまだスタートに居る俺は、相も変わらず6を出して、またスタートへ。
・・・ゴールは頼みました、鶴屋さん。
まじかるから普通の服に戻った朝比奈さんも6を出して、同じくスタートへ。
「えへへ・・・、難しいですね。」
本当は難しくなんて無いはずなんですが、その意見には賛成です。
鶴屋さんとハルヒはそれぞれ、ボーナスコマに辿り着き、次のターンの結果次第では上がれるかもしれない位置につけた。

続いて長門がサイコロを転がす。
『あるキーワードが唱えられるか、ゲームが終了するまで、異空間に閉じ込められる。』
って、おいおい、またかよ。
まぁ、キーワードはもう分かっているから、問題ないがな。
−困った。

「キョ、キョン君待ってくださぁいっ!」
朝比奈さんの制止の声も間に合わず、俺はそのキーワードを口にしていた。
・・・制止の声?
「あ、あの、この居空間トラップは侵入してから出てくる時間が短いほど・・・」
そんな朝比奈さんの声を遮って、俺の後ろから長門の声が耳に響いた。
「本気狩る☆ユキ・・・。」
不穏な単語の韻にぎょっとして振り返ると・・・、異様に露出度の高い魔女っ娘服の長門が、座る俺を無表情に見下ろしていた。
朝比奈さんとは対象的なあざやかなブルーの色の衣装で、同じくフリフリなんだが・・・、その身体を覆う布地の箇所が著しく異なる。
なぜか、胸やら尻やらの局部が、ほとんどむき出しといっても良いくらいなのだ。

「・・・侵入してから出てくる時間が短いほど、衣装が際どくなっていくの・・・。」
そ、そういうことは早く言ってくださいっ!!
長門の手がぶるぶると震えているが、もしかして・・・、呼び出したことを怒ってる!?
ま、待て、長門。
俺はお前を助けようとしてだな・・・!
こんなことになるなんて、分かりっこないだろっ・・・!?
「キョンちゃんを敵性と判定。」
って、やっぱりキョンちゃんなんだなっ!!?
「キョンちゃんのばかぁーーーーっ!!!」
いつの間にか長門の手に握られていた、巨大すぎるハンマーが振り下ろされる。
ていうか、長門がそんな感情的な台詞を言うなんてそれが驚きだよっ!
これもまじかる☆師匠とやらの差し金かっ!!?
それを最後の記憶に、俺の意識は闇に閉ざされた・・・。


・・・ハッ、と俺の意識が覚醒する。
「どうだった?キョン?」
「・・・?」
「・・・ど、どうしましたー?」
「どうだったんだいっ!?」
4人の視線が俺に集中していた。
ハルヒと鶴屋さんは目を輝かして、朝比奈さんは心配そうに、長門は・・・普通だよな?
・・・夢だったのか?

「で、どんな夢だったの?」
ハルヒがずい、と身を乗り出しながら尋ねてきた。
・・・何がだ?
というか、どうして俺が夢を見ていたことを知ってるんだ?
「そりゃ、コレの指示だし?」
ん?
コレは俺が最初に出した6のコマの指示・・・?

『スタートに戻る。そして、その後このゲームの顛末の予知夢を見る。』
つまり、アレか。
さっきまでのは、予知夢ってことか?
・・・長門よ、死に至ることはないと言っていたが、どうやらよりにもよってお前の手に掛かって、俺は死んじまうらしいな?
「・・・何?」
自分を見ていたのに気づいたのか、長門がこくん、と首をかしげる。
いや、なんでもない・・・、が、ハルヒよ。
コレをやるのは止めておいたほうがいいぞ。
ロクなことに絶対ならん。

「そうなの?
・・・うーん、まぁ、キョンがそこまで言うならいっか!
それじゃあ、これからSOS団新春麻雀大会――っ!!」
俺は初めに6を引けた幸運に感謝したね。
ま、あの卓上ゲームは後で川にでも流してやることにすることにして、
今は夏休みの麻雀での屈辱を如何に晴らすかを考えなければいかんな。


・・・というか、さっき言ったにも関わらず、またやりやがったので再度言うが。
中の人ネタは分からん人置いてけぼりだから、分からん人に謝っとく。
正直、スマン。
(終わり)