平行世界はどこにある?

取りわけ理由があるわけではない。
たまたま思いついたんだと言い訳して、隣にいるソイツに話かけてみた。

ソイツは
「何言ってんだ、コイツ?」
とでも言いたげなうろん気な目つきを返しやがった。

ほっとけ、と突っ込みたい気持ちをぐっと抑えて、話を続けた。
そもそも、平行世界とは何だか知っているか?

古泉から聞いたことだがな、と前振りを入れる。
俗に言う、異世界とやらの一種で、
俺のいる世界から別れて出来た、並行して存在する別世界のことらしいぞ。


・・・例えば、あの『消失』の世界は、
今の世界から別れて出来たものだ。
アレは、一種の平行世界とも言えるのかもしれん。


つまりは、
俺がハルヒと出会ったりせずに、
平凡でありながらも、胃を痛めたりすることのない日々を送っていたり、
朝比奈さんは上級生で、
遠くからダチと眺めて、噂の彼女だと騒がれる存在であったりだ。
長門は読書好きの見知らぬ同級生で、
朝倉なんかと仲良く登校していたりして、
古泉は同じクラスで、
谷口や国木田と一緒に世間話を喋っていたかもしれない。

そんな、『かもしれない』な世界。
それが平行世界と呼ばれるものだそうだ。

しかし、だ。

当然のことながら、
俺はハルヒと出会っちまったし、
SOS団なんて妙ちくりんなものに参加するハメになっちまった。

夏には海の真ん中にある孤島にも行ったし、
文化祭には映画もどきのカメラマンなんてのもやった。
クリスマスには鍋をして、
2月には宝探しに、
犬の奇病調査にも引っ張り出された。

そんなことは既に体験したことだし、
今さら、
「やっぱり無かったことにしてくれ」
と言ったからといって、なかったことに出来るものではないぜ。


・・・長門でさえ、
結局世界の改変なんてものは行えなかったのだ。


しかし、もしもそんなこと出来る方法があるなら教えてもらいたい。
年度末テストをやり直すのだけはやぶさかでないんだ。

では、だ。
話を戻すが。

じゃあ、平行世界とはどこにある?

俺はこう結論づけた。


−未来にある。


涼宮ハルヒの憂鬱SS 涼宮ハルヒの断裂 前編


「はぁ。
・・・何よ、ソレ?」

ソイツ、改め涼宮ハルヒは黙って俺の話を聞いていた。
話が終わってからも、きょとんとした顔でしばらく俺を見つめていたんだが、
正気に戻ったのか如何にも胡散臭そうな顔で俺を見下ろしてきやがった。

どうしてコイツは椅子に座りながら、
立っている人を見下ろすことが出来るのだろう?

−いや、実際に見下ろしているわけではないのだが、
気分的にはどうも見下ろされている気分になるんだ。
不思議なもんだぜ。


そんな事よりも、火急の件だけはしっかりと片しておかなければいけない。
少しでも火種が燻っていれば、ハルヒのことだ。

気がついた時には、
日本中を焼き尽くすだけの大火災に発展しかねない、というのが俺の認識だ。
異論は受け付けているので、ご自由にどうぞ。
応募者には今ならハルヒの世話係りもお付けします。

「キョンが無い知恵絞って考えたことは褒めてあげるけど、
・・・うーん」

ハルヒは首をぐりぐりと捻り、有り得ないモノを見たとでも言いたげだ。
なんだ?
俺が突然古泉みたいなことを言い出したのが不思議か?

「ソレもなんだけど、
アンタ、所々ミョーな間を入れなかった?」

今度は俺をじろりとねめつけながら、そんなことを言ってきやがった。
・・・鋭いな。

俺の心の内に留めたいところがあったんだよ、悪いか。
内心の動揺を隠すかのように、一言で切って捨てる。

「ふーん、
ま、いいけど」

いいなら、聞くな。
俺は内心の動揺を隠すかのように、一言で切って捨てた。

「それよりもアンタが突然似合わないこと言い出した理由の方が興味あるもの」

ハルヒは唇を尖らしながら、憮然とした表情でそんなことを言ってきた。
似合わないは余計だが、いつまでも本題に入らないでいると、お客さんも飽きるしな。
では、本題に入るぞ。

ここまで読み飛ばした方は、
斜め読みの角度をもう少し小さくしてくれると助かる。
具体的には30度くらいに抑えてくれ。


「つまりだな、俺はSOS団の団員その1だってことだ」

そんな俺の端的な説明にハルヒは、
「エ エ」みたいな視線で返してくれた。

ハルヒは俺をしばらく見つめた後、
ゆっくりと立ち上がった。
それから、じりじりと俺に近づいてきて・・・

「アンタ、キョンの偽者ねっ!!
本物はそんな前向きな台詞は言わないわっ!!!」

襟首をがっしりと掴みながら、
そんな事をほざいて来た。

・・・えらく心外だな。
これでもロマンチストで通ってるんだぜ、俺は。

「どこの地方限定よ、それ?
どーせアンタの脳内まで遡らないとダメなんでしょ!」

確かに言われた記憶はないが、そこまで言われる筋合いもないぞ。

恥ずかしい台詞は言いたくなかったが、仕方がないな。
コイツに遠まわしに伝えようとした俺が間違ってたんだ。
もう一度言うぜ、仕方なく、だ。

俺はな。
お前が起こす悪夢的出来事を楽しいって思っちまってるんだよ。

ハルヒがパチクリと目を瞬かせた。

ああ、そうだよ。
楽しかったに決まってるじゃねえか。
解りきったことを何回も言わせんな。

目の前のヤツは珍しくも視線を泳がせた。
俺はそれに気付かないフリをして、話を続ける。

だからな。
きっと俺はもう中学時代の俺じゃ、満足できねえんだよ。
それに長門に朝比奈さんに古泉だぞ。
お前1人でも充分なのに、オモシロキャラが追加で3連発だ。
これで俺が面白くないわけないだろうが。

ハルヒは何か口に出そうとして、口を開いて、そして躊躇した。

だから、俺が後押ししてやるよ。

「そういうことだ、分かったか」

突然、ハルヒが掴んでいた手を離した。
結構な力で掴まれていたせいか、思わずタタラを踏んでしまう。
下を向いて転ばないようにするだけで精一杯だ。

・・・このとき、俺は転んででもハルヒの表情を見るべきだったのかもしれんな。
今後一生そのネタでハルヒをからかえるような、面白い貌をしていたのは確実だっただろう。


ま、残念ながら、俺はその機会は逸してしまったが。

何しろ、そのことに気付いた俺がようやく顔を上げた時には、
ソイツは満面の笑顔を浮かべてやがったからな。

「当然じゃないっ!!
キョンの分際で何当たり前のこと言ってんのよっ!!!」

ハルヒはそう言ってスカートを翻して、くるくると回転した。
狭い部室の中で、器用にひらひらと舞う。
何回転かした後、その動きがピタリと止まった。

「で、結局平行世界云々って何だったのよ?」

目が回った様子も見せずソレか。
ま、えらく当然の疑問だな。
何しろ当の本人も良く分かってないくらいだ。

きっと過去は過去だ。
割り切っとけ、ってことだろうな。

「・・・なんか、キョンの分際で偉そうね。」

さっきの上機嫌をそのままに、ソイツは意地の悪い笑みを浮かべていやがった。

目にも止まらぬ速さで、ハルヒの腕が俺の急所である首に襲いかかってきた。
なす術もなく捕まった哀れな俺の首は、
そのままぎりぎりと締め付けられる。

「ほらほらっ、参ったって言いなさいっ!!」

ハルヒはニヤニヤを通り越して、ニコニコと笑いながら俺の首を締め付ける。

いや、待て、普通に痛い、というか近い!?

オイこら放せ、と俺が言おうとしたときだ。

ガラガラッ、とノックもなしにドアが開き、
見慣れた無表情な顔が現れた。

「・・・ごゆっくり」

そのまま、ぴしゃん、とドアが閉じられる。
・・・そのリアクションは珍しいな。

ハルヒが慌てて俺の首を突き放し、

「ちょっと、有希っ!
そういうんじゃないって!!
いいから、戻ってきなさーいっ!!!」

などと叫ぶのを横目に見ながらも俺は思った。
封印したとはいっても、
心の中で呟くのぐらいは勘弁してくれと言いたい。

・・・やれやれ。


ハルヒは何を思ったのかそのまま長門を追いかけて行ってしまった。
すると、そのタイミングを見はからかったかのように、
古泉が部屋に入ってきやがった。

・・・長門もグルか?

「さぁ、どうでしょう?」

いつものニヤケ面をさらに苦笑で歪め、問いかけてくる古泉。
誤魔化してるつもりか?

「いえ、そういうつもりでは。
一緒に部屋の外で待っていましたが、
あのタイミングでドアを開けたのは長門さんの独断ですよ。」

そう言って古泉は相変わらずイヤになるぐらいの完璧さで肩を竦めて見せた。
まぁ、結論だけ見ると、ベストタイミングだったんだろうな。

「ええ、そうですね。
アレ以上は我慢出来なかったようですし。」

我慢?
まぁ、いい。

で、俺はアレで良かったのか?
せっかくなので、古泉に聞いてみることにする。
どうも、ああいうのは苦手だ。

古泉はちょっとの間、考える素振りを見せてから、
珍しくも自分の意見を濁すようなことを言ってきやがった。

「結果発表は明日にしておきましょう。
いえ、僕個人としては、問題は解決したと思いますがね。」

なんだ、お前はハルヒ研究家だろうが。
そのぐらいパッと答えてほしいものだが。

「その呼び名も近々、貴方にお譲りしようと思っています。
そろそろ、僕が心を痛める必要もなくなるかもしれません。」

それは全力で辞退させていただく。
お前だけ楽させるのはイヤだしな。

「そうですか?
譲って欲しくなったら、何時でも構いませんので仰ってください。」

俺がありえん、ありえんと顔を顰めていると、
わいわいとドアの向こう側が騒がしくなってきた。


ここで話は終わりだ、とばかりに古泉に向けて手をぷらぷらと振ってやる。
古泉も了解です、とばかりに首肯する。
古泉とばっかりブロックサインが上手くなるな・・・、憂鬱だ。

まず部屋の中に入ってきたのは、大方の予想通り、涼宮ハルヒ。
そして、腕を掴まれた長門が続いた。

なるほど、これが急に騒がしくなった理由か。
その後ろから最上級生とはとても見えない2人組が入ってきた。
それが誰かなどとは言うまでもない。
1人は、朝比奈さん、
もう1人は・・・

「やっほーい、キョン君っ!」

とお金が取れそうなほど満面な笑みを浮かべた鶴屋さんだ。


鶴屋さんは花見をしようという計画と、
俺にとって全く喜ばしくない短歌自作という宿題を投下して帰っていった。

パワフルすぎる彼女に当てられていた俺は、ようやく余裕を持てることが出来た。
改めてハルヒの様子を見てみるが、別に普段と変わったところは見られない。

いや、鶴屋さんのお陰かかなり楽しそうに見えるな。
悩みなんか何1つないって感じの面だ。
これなら明日は朗報が期待できるかもしれん。


それからミーティングが行われ、明後日の土曜日に本年度第1回となる不思議探索ツアーを行うことになった。
・・・明後日?
今日は木曜日だから、明日は金曜日で、明後日が土曜日だ。
何も不思議なことはない。
無いのだが・・・、どうにも違和感がある、そんな気がしてならない。
一体、どうしてか。
それは?

「それじゃあ、解散っ!!」
ハルヒの声で我に返る。
同時に、今まで俺の頭に燻っていた疑問が吹き散らかされた。
それをかき集めようとする前にハルヒによって部屋から追い出される。
さらに、思考が分散する。
そして、気付くとその疑問自体が、もうどこにも無くなっていた。


朝比奈さんが着替えを終えるのを待ってから、集団下校とあいなった。
ハルヒと朝比奈さんはじゃれ合いながら、
俺は古泉と世間話を喋りながら、
そしてその後ろを長門が無言でついて行く。

それは、いつもの分かれ道である光陽園駅前まで続いた。
全員と別れた俺は、1人で家までの道を辿る。

途中の道で、暖かくなってきたからだろうか?
家から抜け出しと思われるたシャミセンを発見し、捕獲する。
抵抗することもなく、俺に抱かれるがままのシャミセンには大いに野生が欠落している。
・・・コイツは本当に野良だったのか?と疑わしいことこの上ない。


そんなこんなで、特筆するようなこともなく、家まで帰ってきた。
何故か俺の部屋のベッドで転がっていた妹にシャミセンを押し付けると、

「しゃみしゃみ〜♪
足が汚れてるから〜洗ってあげないとダメダメ〜♪」

などと、即興の歌を口づさみながら、シャミセンの足を拭きに部屋を出て行ってしまった。
あの面倒くさいことでも楽しんでやれる素直さは褒めてやらんといかんな。

が、ぐちゃぐちゃになったベッドを見ると、褒めてやる気も失せる。
ま、我が家の家系に連なる妹がそんなに優秀であるわけでないし、このぐらいで丁度良いのかもしれん。
・・・そう思っておくことにする。

俺はのろのろとベッドを直そうとして、
髪留めのゴムが落ちているのを見つけた。
・・・我が妹君は髪を解いていたな。

まぁ、後で返してやればいいか、とそのまま自分の制服のポケットに突っ込んでおく。
ベッドを直している内に、そんな些細なことは記憶の彼方に追いやられてしまい、
すっかり忘れて制服から部屋着へと着替えてしまった。

それから先は飯食って、寝た。
以上だ。
詰まらんがそれもまた現実だ。
直視しろ。


次の日、相も変わらず眠気というプレゼントをこれでもか、
というぐらい与えてくれた授業の時間が終わりを告げるとともに、
俺は掃除当番なハルヒを放置して、部室へと向かっていた。

ノックをして部室に入ると、そこには既に古泉と長門が居た。
長門はいつもの場所で変わらず鎮座しており、黙々と本を読んでいる。
コイツも変わらんな、と思いつつ古泉の方を見る。
古泉は俺に向けて変わりばえのしない挨拶を定型的に発した後、
珍しくも興奮気味に話しかけてきた。

だが、古泉もさすがSOS団副団長と言うべきか、
言いたいことをつらつらと重ねてしまう傾向にあることは周知の事実だ。

今日は特にスイッチが入ってしまったらしく、止まることが無い。
何喋ってんのか教えてほしいか?
それはムリな相談だな。

何しろ俺の耳はそんな戯言を華麗にスルーし続けているからな。
ほら、ソコ!
わかんないから聞き流してるとか言うな!
事実だとしてもな。

まぁどちらにしろ、だ。
過去のおっさんが言った小難しい理論や理屈なんかの談義は後で長門とでもしてくれ。
俺はユングだかフロイトだかその辺りさえも、名前を知ってるぐらいなんだからな。
そのぐらい分かれ。

結局、お前のバイト代が出たのか、出なかったのか
そこだけ教えてくれれば充分だ。


「ああ、すいません。
つい興奮して我を忘れてしまいました。」

そう言って古泉が一回言葉を区切った。
これでようやく話になるだろう。
ハルヒが来るまでしか出来ないんだから、手短に頼むぜ。


「結論を言いますと、昨日は熟睡させて頂きました。
涼宮さんの精神はひとまず安定したと言っていいでしょう。」

そうか、それは安心だ。
で、だ。
問題は解決したと思って良いのか?

「ええ、しばらく様子を見る必要はあると思いますが。
どうやら、涼宮さんは不安だったようです。
つまり、あなたがムリヤリSOS団に参加させられているだけなんじゃないか、
ということに対してです。
その発端は言うまでもありませんね。
あの、あなたの中学時代のご学友である佐々木さんです。
涼宮さんは失念していたのでしょう。
当然あったはずの、SOS団結成以前のあなたの姿というものをです。
僕、長門さん、朝比奈さんの3人は自身の心象に関わらず、この団を蔑ろにすることは出来ません。
むろん、僕らは自ら好き好んで参加していると思いますが・・・。」

そう言って、古泉はちらりと長門に顔を向ける。
長門は古泉の言葉に対して賛成も反対も、どちらの意も唱えたりはしない。
が、まぁコイツだって、イヤだとは思ってないだろうさ。

俺は古泉に先を促した。

「ですが、あなたは違います。
自分の意思で、SOS団に所属するかどうかを選ぶことが出来ます。
その辺り、涼宮さんは本能的に察しているんでしょう。
僕らも、涼宮さんも何も言いませんが、ええ、分かっているんだと思いますよ。
ですから、あなたが今よりも昔の方が楽しかったのだと、
そう考えているかもしれないことが潜在的に怖かったのでしょう。
ですが、高校生のあなたはどこまでもSOS団の団員であり、
その恐れが表面化することはありません。
が、中学生のあなたはそうではありません。
あなたをSOS団と認識しない方との対面は、
そんな涼宮さんの潜在意識に働きかけるのにピッタリでした。
涼宮さん自身の中学時代があまり愉快なもので無かったのですからなおさらでしょう。」

ま、アレじゃあ愉快には過ごせんだろうな。
谷口の態度を見ても一目瞭然だ。

「そうです。
ですから、もしかしたら、比べてみたくなったのかもしれません。」

何をだ?

「自分と佐々木さん、あなたがどちらを選ぶのか、ですよ。」

はぁ?
意味が分からんぞ。

「つまり、佐々木さんが涼宮さんと同じようにSOS団のような組織を作ったとしたら、
あなたはそちら側についてしまうんじゃないか、ということですよ。
何しろ現実に、佐々木さんの下に僕らとは異なる超能力者が集まっていましたから。
涼宮さんに力を与えてもらった、とは考えていない彼らは、
佐々木さんを主として崇めています。
そこに、未来人らしき影も見え始めた・・・、
あなたも以前、朝比奈さんと一緒に遭遇したはずです。」

・・・あいつらか。
佐々木とあいつ等が協力関係だって言うのか?

「いえ、ソレは知りませんが、
どちらにしろ、協力など出来ないと言った方が良いですかね。
なぜなら、佐々木さんは涼宮さんとは違い、
時空改変能力など特筆すべき力を持っていないからです。」

は?
それじゃあ、あの誘拐犯どもは一体何をしたいんだ?
古泉にとって、俺の疑問は想定内だったんだろう。
淀むことすらなく、自分の意見を語ってやがる。

「そこです。
彼らは涼宮さんから佐々木さんへと力を移したいんですよ。」

だが、俺にとってその回答は想定外だ!

ちょ、ちょっと待て!
そんなこと出来るもんなのか?

当然の疑問に古泉は肩をすくめて、

「もちろん出来ません。
ですから、朝比奈さんのような未来人も、
長門さんのようなTFEIも涼宮さんの側に付いているんですよ。
そのため、彼らは未来人やTFEIに協力を求めようと試行錯誤していたはずでした。」

それでソイツら側についたのが、あのいけすかない感じの未来人か?

「ええ、そのようですね。
そのため、彼らの動きは少し活発になっていました。
大方、あの誘拐騒ぎも未来人に唆されたのでしょう。
彼らは理性的で、平和主義な方々が多かったはずですから。」

あの誘拐犯どもが平和的だとはとても思えんが、・・・まぁいい。
今更、そんなことを穿り返しても仕方がない。
あの誘拐犯どもが目の前に出てくるなら話は別だが、
出てくるつもりがないなら許してやらんこともないさ。

・・・改めてみると、俺の交友関係はエライことになってるな。
全く、今度は国木田は地球防衛隊の隊員で、谷口はらき☆すたに出演とか言い出さないか心配だぜ。

「後者は兎も角、前者はありえませんよ。
機関の調べでは、その2人はシロですから。」

まぁ、その辺りはいいさ。
でだ。
話はどこまでいったんだっけか?

「とにかく、彼らは涼宮さんの力を佐々木さんに移したかったんですよ。
そこに、涼宮さんと彼女が出会ってしまいましたからね。
それもあなたを中心として、です。
ですから、あなたが佐々木さんを選べば、涼宮さんの力もそのまま佐々木さんに移ってくると考えたのでしょう。」

は?
なんだそれは。
それじゃあ、まるで俺が選んだヤツに力が宿るみたいな言い方だな。
生憎だが、俺は一般人だし、
そもそもハルヒを選んだつもりなんてないぜ。

「ええ、勿論です。
ここで大事なのは、彼らは力は間違って涼宮さんに与えられたもので、
本来その力があるべき人は佐々木さんだと思っている所です。
そこで、涼宮さんの下にあったはずのものが佐々木さんに移ることが、
力そのものの移動に繋がると考えたようです。
一つの儀式といったところでしょうか。」

・・・よく、分からんが、なんだ。
別に俺じゃなくても、古泉や長門でも良かったということか。

「ええ、そう考えていたでしょうね。
ですから、朝比奈さんを誘拐しようとしたのでしょう。
誘拐してから、じっくりと佐々木さん側に付くよう説得するつもりだったと考えられます。」

なるほどな。
丁度ハルヒが隙を見せた今がチャンスだったという訳か。
ん?
イヤ待て。
古泉、確か、ハルヒが起こそうとしたんじゃないか?
俺がどっちを選ぶとか、選ばないとかだ。

「ええ、よく覚えていてくださいました。
今まで言ってきた全ての前段階を利用して、あなたが涼宮さんか、佐々木さんか、
どちらかを選ばせるための状況が構築されようとしていたのです。
これは僕の憶測ですが・・・、
おそらく明日にでもあなたは、佐々木さん、それから僕以外の超能力者の誰か、
その辺りの人物と接触していたと思いますよ。
それも涼宮さんと佐々木さんを比べるかのうような、ドラマチックな演出で、です。
彼らは、自分たちでその状況を意識的に作り上げたと考えるのでしょうが、
実際は涼宮さんの気持ち次第で状況は変化するというわけです。」

なんともハタ迷惑な話だな。
未来の俺に同情するぜ。

「ですが、涼宮さんの気持ちが安定したようですので、
もうそんな偶然を装った演出がされることは無いと思います。
1つ例をあげれば、あの未来人は彼らの前から姿を消したようです。
それだけで、彼らの影響力は激減したと言って良いでしょう。
そもそも涼宮さんが望まないのですから、
今後佐々木さんと涼宮さん、それからあなたの3者が鉢合わせすることはないと思いますがね。」

だが、何だ。
何かまだ不安要素がある。
そんな気がするんだが、これは俺の気のせいか?

「未知のTFEIがいる可能性があります」

俺の不安には古泉も同調したらしい。
少しだけ声を抑えて喋った古泉の台詞は、
妙に現実感を持って聞こえた。

「佐々木さんの下に、未来人、超能力者が居たのであれば、
当然宇宙人もいたと考えるのが自然です。
そして、機関は既知のTFEIの中で、そのような行動をとった個体を把握していません。」

俺はふと思いついた意見を言ってみた。
・・・喜緑さんじゃないのか?
あの人は何処にでも居そうな気がするぜ。

「そうであるならば、良いのですが。
・・・いえ、やはり困り物です。
ソレはつまり僕たちには彼女たちの監視は不可能という意味になりますから。」

俺たちだけではラチがあかんな。
長門に聞くのが早−。

俺の声はたったったっという廊下からの音に遮られた。
ハルヒが廊下を爆走する音だ。
・・・分かりやすいな、相変わらず。

ちらりと長門のほうを見ると、持っている本はそのままに、左右に首を振っていた。
知らないって意思表示だろう。
ま、長門のことは信用して問題ない。
知らないって言うなら、知らないのだろう。

取り合えず、やれることはやったのだ。
後のことは後のこと。
野となれ、山となれ、だ。

俺がそう結論付けると同時に、
ハルヒが大音声で
「やっほーーーっ!!」
と叫びながら部室に入ってきた。
ま、今日のSOS団裏ミーティングはここまでだな。


・・・このときは、まだ自分の発言の結果というか、
俺が先手を打ったことで世界がどう変容するかなんて考えていやしなかった。

俺は、今までの自分ならしなかったであろうこと、
楽観視していたことに対して防災を試みてみただけだ。
きっと、それでハルヒの暴走を抑えられると何と無しに思ったわけだし、
実際、ソレは上手くいっているように見えた。

・・・が、まさか、そのことが原因で、新しい火種が生まれるだなんて、
全く、世界は俺に対して些か厳しすぎるのではないか。
いずれ、利子を付けて返してもらいたい。

ともかく、結果から言うと、
俺はSOS団の不思議探索のあった土曜日に佐々木と再会することはなかった。

再開することが予定調和だったのかは知らんが、事実は事実だ。
古泉の言ったとおり、ハルヒがそれを望んでたかどうかも知らんしな。

ともかく、当然のことながら、朝比奈さん誘拐犯と合間見えることもなければ、
ひねた未来人の呼称も知ることはなかった。

が、それでは困り果ててしまうヤツがいたらしい。
俺たちの誰とも接点を持たなかったソイツと、
偶然だか、
必然だか、
作為的だか、
そんなことは分からんが、知り合っちまった。

今思うと、あまり歓迎したくなかったイベントは、
俺が古泉と一先ず安心か、などと話したその日の帰りのうちに起こったのだった。


昨日と同じように、駅前でハルヒたちと別れた俺は、
昨日と同じ道を1人で歩いていた。
まったくもって、テンプレだな。
あまりにもな同じっぷりにコピペで済まそうとさえ思ったね。
ところが、事実は小説よりも奇なりとはよく言った言葉だと思うが、どうか。


我が家のすぐ手前、道路の路側帯で衝撃的な光景が俺を待ち構えていた!


初めに見えたのはネコだった。
我が家のネコがぶらん、と宙に浮いていた。
それから、黒い塊だ。

まぁ、つまり、黒い塊に紛れ込んでシャミセンが絡まっていた。
・・・俺の頭は大丈夫だろうか?
あまり自身はないが、大丈夫だと思いたい。


一度、目を逸らしてから、もう一度そちらを見る。

・・
・・・人間だ、良かった。

それは光陽園女子の制服を着た、異様に長い黒髪の少女だった。
しゃがみこんでいるが、えらい小柄なのは確かだろう。
顔は整っているようだが、
長門さえも凌ぐような無表情っぷりがその雰囲気をどこか不気味なものにしていた。

・・・がそんなことは些細なことだ。

何しろソイツは、両手でシャミセンの腹を持ち上げ、
首すじから噛み付いてやがったんだからな。

もし俺が、いくつものハルヒが巻き起こした騒動に慣れていなかったら、
絶叫しながら、近くの民家に逃げ込むか、
見なかったことにして、スルーしていたことは間違いない。

気力を奮い立たせて、その異様な風景を確認する。
シャミセンは珍しくも抵抗したのか、体中にソイツの髪の毛が巻きつき、身動きさえ出来ないお手上げな状況だ。

・・・上の2つのどちらかを実行したいんだが、どちらが良いだろう。
シャミセンにはこの際、尊い犠牲になってもらうのが一番良いと思うが、どうか。


えらく混乱した頭で、どうすれば逃げられるか、と考える。
が、時は既に遅かった。
ソイツが俺に気付いてしまったようだ。
シャミセンから口を離し、もたもたとした手つきで絡みついた髪を解きにかかっていた。

どうやら、シャミセンを喰おうとしていたわけではないようだ。
とりあえずほっとする。
あんなナマモノでも我が家の大事なペットだしな。
食用ではないんだ。
自重してくれてありがたい。


俺はそんなことで安心してしまったのか、思わずソイツに話しかけてしまった。


「ソイツは家のネコなんだが、解くの手伝うか?」

ソイツが俺の方を向いた。
黒い、ガラスのような透き通った瞳が俺を射抜く。
感情の篭らない顔は、まるで一変の変化も見られない。
少し気圧されそうになるが、
それでもまだコミュニケーションを取れるぐらいには俺の気力ゲージは残っているようだ。

小さくため息を吐いて、気を取り直すことにする。
それにしても・・・あんな状態でコイツは痛くないんだろうか?
見ているこっちが痛くなりそうなくらいなんだが。

結局ここまで、答えを返す素振りさえ見せず、相も変わらず無表情だ。

俺は関わらなくてもいいもんに関わっちまったな、と今更ながらに後悔する。
そう思いつつも、まぁいいか、と割り切ってシャミセンに手を伸ばす。

「・・・・・・確認」

聞き取れるかどうかぐらいの小さな声。
だが、まるで機械のような正確な発音と発声で呟かれたその声は、
俺の耳にはっきりと届いた。

「・・・・・・この中にある・・・・・・」

一度そこで、一息入れたソイツは、さも当然のような口調でこう言いやがった。

「―――幽霊」

ぎょっとする。
が、同時にどこかそんな予感がしていたのだ。
あの噛み付きは以前も見たことがあるし、
この取ってつけたような無表情にもだ。

「お前は長門のお仲間か?
名前は何だ?」

俺は警戒心を解いて、シャミセンを髪の毛から開放することに専念することにする。
俺の勘によると、間違いない。
コイツは宇宙人だろう。
であるならば、味方なら心配するだけ損だし、
敵なら俺が何をしようと無駄なことは百も承知だ。

ソイツは、俺が髪を解くのを見ているだけで、何も喋ろうとはしなかった。
ただ、じっと俺を見つめていた。
その底なし沼のように反射しない瞳で。


10分もそうしていただろうか。
つい先ほど、解放されたシャミセンは、礼を言うこともなく意気揚々と去っていった。
で、俺も早々に退散したいのだが。

いつの間にか、腕を握られていた。
痛くも痒くもない。
ただ握られているだけなはずだが、ピクリとも動かすことが出来ない。
で、いい加減俺が本気で長門にでもヘルプの電話を入れようとしていたときだ。

「・・・・・・周防・・・・・・九曜」

10分ぶりに聞いた声がソレだった。

それは、名前か?

ひどくゆっくりと頷いた。
まるで1つ1つの動作を確かめているような、そんな違和感があった。

「・・・・・・わたしは・・・・・・あなたを・・・・・・観測
・・・・・・間違えない・・・・・・
時間・・・・・・温度
・・・・・・遅い・・・・・・退屈」

スマン、意味不明だ。

その後も、ソイツはどこまでも意味不明だった。
だが、それはまるで国際電話のような、
翻訳機を使って喋ってるような感じとでもいうのだろうか。
言いたいことがあるのに、上手く伝えられないような、そんな焦燥感が根底にあるような感じがした。

だからというわけではないが、俺はその場を離れられなかったのだ。
・・・客観的に見ると、コイツに付き合ってやっている俺は、かなりのお人よしか暇人なんだろう。

かなり意味不明な単語の羅列に対し、相槌を打ってやり、
こちらから話題を振ってやる。

そんなことをやっていたらだ。
突然、まるでラジオの送信と受信の電波が一致したかのように、そいつの言葉が明瞭になった。

「私は、周防九曜デス。
あなた達がTFEIと呼ぶ存在に合致デス。
地球のヒトと呼ばれる種の個体認識にはまだ情報不足デス。
あなたが私の観測対象デス。
生まれて日が浅いデス。」

文章は固いが、言葉自体は大分こなれてきた。
先ほどまでとは比べ物にならないぐらい流暢に言葉を発していた。

そして、こうしてコミュニケーションを取ってみて驚いたのだが、
コイツ、いや九曜はひどく素直だった。
俺は九曜がマトモに受け答えできないうちに、3つ程アホなことを言っていた。
1つ、語尾に「です」をつけろ
2つ、宇宙人だとばれないように危険な発言には冗談だとフォローをいれろ
3つ、髪の毛が多すぎるから束ねた方がいいぞ

それを受けての先ほどの発言だ。
もしかしたら、変なこと植えつけてしまったかもしれん。
まぁ、個性は大事だ。
・・・そう思っておくことにしよう。


コミュニケーションが可能になると、コイツの異質性の原因となる部分が目に付くようになった。
まるでモップのような『もっさり』という表現がぴったりくる長髪だ。
ま、俺が言い出したことだし、束ねてやるものはないか?
・・・と思ったら、ポケットの中に髪留めが入っていたのを思い出した。

まるで、出来レースのようだな。
そんなことを思いつつ、適当に髪を結んでやる。

というか、断りもなしに結んでしまったが、大丈夫だろうか?
結んでしまってから言うのもなんだが、一応断りを入れてみた。

髪結んじまったが、良かったか?

「平気デス。
このほうが機動性に優れてるデス。
問題はないデス。」

九曜はまだ固い感じな声でそう答えた。
「です」のイントネーションが変だぞ?
まあ、気にすることでもない。

そうか、と言って、俺は立ち上がる。

それじゃあ、そろそろ行くからな。

俺は九曜との初遭遇を終えることにした。

俺が立ち上がって、家に入っていく間、九曜はじっと俺を見続けていた。
少なくとも、俺が家に入ろうとした時に横目でちらりと見たら、
まだそこで惚けてやがったのは間違いない。


次の日、俺は妹が俺を起こしに来る前に目を覚ました。
身体をぐいっと起こしてみるとえらく調子が良い。
今日は快活そのものの爽やかな目覚めだな。

しかし、俺はどのぐらい早起きを・・・

時計を確認した俺の動きが一瞬止まる。
普段、俺が起きている時間と変わらない時間だ。
つまり、休日だからと言って、変わる事のない攻撃を仕掛けてくる妹が、
とっくに起きている時間帯だった。

・・・ま、早起きを信条とする我が妹だって、偶には睡眠を貪りたい日もあるだろう。
俺は深く考えることもせず、まだ集合時間には余裕があるな、などと確認しながら、朝食を食べに階下へ降りていった。


「あ、きょんくんっ、おふぁよー!」


妹が居た。
とりあえず、ご飯は飲み込んでから喋りなさい、と注意する。


「はぁーい!」

と素直な返事を返すが、あまり理解していないような呑気面だ。
まぁ、この際妹は置いておこう。
別に妹が飯を食ってるのはいつものことだ。
平日なら2回は見ているし、休日なら3回見ていることだって多い。

別段、気にするような光景ではない。
ないのだが・・・。

「どうしたのーっ?」

隣で野菜ジュース啜ってるヤツは何処で拾ってきたんだ?

「けさぁーー!
シャミをお外に連れていこうとしたら、会ったのーっ!」

そうか、今日の健やかな目覚めはいつもの天然重しが無くなっていたせいか。
それはありがたい、ありがたいのだが・・・。

「おはようデス」

ソイツ、いや九曜は昨日と同じ、どこか外したイントネーションで朝の挨拶をしてきやがった。


ちゅるる〜、と九曜のストローを啜る音と、
ごきゅごきゅという妹が牛乳を飲む音が場を支配したっ!!


いや、ちょっと待て。

なんで・・・ん?
そこでようやく気付いたのだが。
九曜の髪型が変わっていた。
もっさりとした髪の量は相変わらずだが、
昨日は俺が適当に束ねただけのその長い髪がキレイに三つ編みに束ねられている。

とはいえ、髪の量が多すぎるのか、妙にボリュームがあるな。
まぁ一言で言えば、海老を連想する。
よく寿司なんかにのってるボイル海老だ。
尻尾つきのやつな。


まぁ、もういいや。
『何で居る!?』なんて突っ込んでも無駄な気がするしな。
事実は事実として受け取っておこう。

俺ははぁ〜と隠すこともせずため息を吐いてから、朝食の席につく。


「キョン君っ、キョン君っ!
ねぇねぇ、この髪、わたしが結ったのぉー!!」

犯人はキサマか。
まぁ、似合ってると言えんでもないからな。
褒めてやろう。

「わーいっ!
くよーちゃん、褒められたよ〜」

そんな事を言いながらも、
妹は九曜の長すぎるお下げを手に持ってぶらんぶらんと遊んでいる。

「てへり、褒められたデス」

なんというか、無表情な顔で照れたように言われるのはシュールに感じるぜ、
・・・というか、九曜!
昨日と性格変わってないかっ!?

「昨日、コミュニケーションを取ったヒトたちを対象に、
より円滑な情報伝達なための方法を模索した結果デス」

一体どこのドイツを参考にしたんだかな・・・。
まぁ、ハルヒを参考にしたりしなかっただけ、マシか?



・・
・・・マシと思っておきたい、
そうしないと俺の身が持たん!!

・・・全く、今日はまだ始まったばかりなのにな、
疲れる日になること請け合いだぜ。

(続く)