−なんでやねん。
俺は突っ込みを入れる際の常套句と思われる台詞とともに、古泉目掛けて裏拳を軽く入れる。
ぱしっ、と乾いた音が辺りに響いたのが、逆に悲しくなってくるな。
「ダメよ!全っ然ダメッ!!
全くもって、なってないわ。
キョン、あんたやる気あるのっ!?
古泉君に突っ込んでる空気が感じられないわよっ!!」
ほんの5分程前に作成された、大演出家と書かれた腕章を腕ごと回しながら、喚きたてているのは、我らが団長だ。
ハルヒよ、なかなか鋭いが、完璧ではないな。
確かに俺は古泉に向けて言ってはいない、実は、お前に向けて突っ込んでいたんだからな。
残念ながら、そちらは伝わらんかったらしい。
いまだに喚きたてるハルヒを脇目にしながら、軽くため息を吐く。
どうしてこんなことになったんだっけな。
・・・そう、ありゃ1時間程前のことか。
涼宮ハルヒの憂鬱SS 涼宮ハルヒの爆笑
そもそもは、1枚の紙が全校掲示板とやらに貼り出されたことが始まりだった。
この学校はクラブ数が思いのほか多い。
その中には落語研究会、なんてのがあった。
しかし、時勢に乗り損ねたのか、理由は知らんが、3年が卒業して会員がいなくなったらしく、廃部と相成ったようだ。
それに際して、あのいかにもな悪のボス的生徒会長が出した企画だ。
その内容は、漫才大会を開き、そこで優勝したチームに落ち研の部室と部費を進呈し、新たな同好会設立を許可するというものだった。
よくもまぁ教諭側にこんな奇天烈な企画が通ったな、と感心できんでもなかったが・・・、うちの団長様が目を付けなければな。
というよりも、古泉たちが用意したハルヒの退屈つぶしのためのイベントなのだろう。
実際、ハルヒは太陽が西から昇るのが当然のような顔で、つまり、俺にとって絶対に有り得ないことを自身満々にって事なんだが、参加宣言をしたのだった。
参加宣言をしたハルヒはスーパーの陳列棚の前で今晩の夕食を悩む主婦のような顔で、俺たちの周りをぐるぐると廻り始めた。
なんだ?バターにでもなるつもりか?
「なるわけないでしょ。
キョン、あんた、笑いの才能ないわねー?」
ハルヒが呆れ顔でこちらをこき下ろしてくる。
ほっとけ、別に困らんし、もっと有意義な才能があればそれで構わん。
「ん?あんた、何かの才能あったっけ?」
まぁ、少なくともお前よりは常識を知る才能に恵まれたとは思うがな。
あと、トラブルに巻き込まれる才能か・・・。
そっちは誰かに熨斗つけて進呈してやりたいんだがな。
希望者が居たら名乗り出てくれ。
俺がそんなことを考えているうちに、ハルヒの冬眠前の熊のような放浪は終わったらしい。
どっちにも共通して言えることは不用意に近づくなって点だな。
にんまりと笑みを浮かべたハルヒが口を開こうとした瞬間に、ドアが予告無く開かれた。
「ちょろっと待つさーーっ!」
まぁ、これだけで分かるだろうが、名誉会員殿が闖入してきた。
一体、何の用ですか?
「キョン君、ナイス反応さっ!
ハルにゃん、みくるは借りてくよっ!?
みくると私の友情ぱわーを全校に見せ付ける良い機会なので、2人で出るさっ!
ハルにゃんたちにも負けないにょろっ!!」
主語が無い会話だが、運良く前の状況と噛み合っているため、理解はしやすいのが幸いだな。
しかし、これで優勝は確定か。
全学年の生徒たちに圧倒的な支持を誇るこのコンビなら、例え何をやっても勝ち残るに違いない。
ま、多少変則的ではあるが、ハルヒもこれで納得・・・
「ふっ、面白い挑戦ねっ!
いいわっ、鶴屋さん、その挑戦受けて立つわ。
準団員と正団員の力の差ってやつを見せ付けてやりなさい、キョンっ、古泉君っ!!」
するわけないか。
お前が準団員と正団員の力の差ってやつを見せ付けてやってくれ。
正直、俺には無理だ。
まぁ、一番気の毒なのは、
「え、え?
あ、あの、鶴屋さん?
私、漫才なんてやったことないし、そ、それに、みんなの前でなんて恥ずかしくて、出来ませんー。
あ、あああ、引っ張らないでくださいー?
ひ、ひぃやぁー!?」
「大丈夫っ!
みくるは普段通りにしていれば、何も心配することナッシンさっ!!
目指すは優勝さー!!!」
と、実はえらく酷い事を言われつつ、襟首を掴まれて鶴屋さんに引きずられていった朝比奈さんなのは疑いようがないな。
というか、メイド服のままだったのだが、大丈夫か?
朝比奈さんの神々しいメイド姿を、名も無い男子学生に見られるのは勘弁願いたいんだがな。
ってことで、冒頭に戻るぞ。
まぁ、古泉と臨時の漫才コンビを組まされることになったんだが、正直相性は最悪だった。
古泉がボケで、俺が突っ込みという役割を恐れ多くも団長から拝命したまでは、まぁなんとかなるか、と正直甘く考えていた。
その後に実際に漫才をやらされる、わずか2,3分の間だけだったがな。
あの時の俺にどうして異議を申し立てなかったんだと、説教かましてやりたいぜ。
まぁ、過去に飛ぶという最終手段は、朝比奈さんがいないから出来ないがな。
ともかく、即興でやらされた漫才がうまく出来ないのは当然とはいえ、あまりにもひどい出来だった。
そもそも、俺に突っ込みの才能があるかどうかは置いといて、古泉のボケが、ボケと分かりにくいのが問題だ。
小難しい精神論だか、なんだかをすらすらと並べ立てているだけにしか聞こえんからな。
さっぱり意味が理解出来ない俺は、古泉の台詞が途切れたところで、「なんでやねん」と返しているだけだ。
古泉がさっき何て言ってたのかさえ、そもそも覚えていないしな。
そんな訳で、俺と古泉の漫才コンビ『古キョン☆ステーション(命名:ハルヒ)』は、早くも暗礁に乗り上げて転覆間際の状況だ。
ハルヒはハルヒで、ひたすらダメ出しを繰り返しているものの、一切内容については触れないからな。
今も、突っ込みの角度が甘い、音をしっかりならせ、だとかそんな事を言ってるしな。
おそらく、ハルヒも俺たちが何言ってんだか、理解出来てないに違いない。
お、ネタを一つ思いついた。
内容が無いようだ。
・・・もう転覆してるんじゃないか?
というか、お前が出ろ。
よしんば、漫才の体裁を保てたとしても、俺たちじゃどう足掻いてもあのコンビには勝てんからな。
「何言ってるのよ?
私とみくるちゃんが争えば、生徒会側の思う壷よっ。
SOS団の分裂だ、今だ攻め込め、ってね。
そうはいかないわっ!
キョンたちとみくるちゃんたちで、SOS団の1、2フィニッシュを決めるっ!
うん、それがいいわ。
ねぇ、古泉君、完璧よねっ!?」
「ええ、生徒会長も大変悔しがるでしょう。」
悔しがらん、悔しがらん。
そもそも、あのコンビは鶴屋さんの思いつきで、生徒会関係ないだろうが。
「はぁ〜っ、キョンのつるつるの脳みそじゃあ、その程度でしょうね。
いいから、私に任せなさいっ!
タイタニックに乗った気分にさせてあげるわっ!」
・・・こいつはあの船は沈んだという事実を忘れてやがるのか?
まぁ、転覆寸前の『古キョン☆ステーション(命名:ハルヒ)』には丁度良い例えだがな。
「違うわよっ!
そのぐらい刺激と感動に満ちた演出ってことよっ!
あの話は長すぎるから、眠くなっちゃうし、私たちは10分でそれを超えるのよっ!」
無茶言うな。
漫才でタイタニックって、一体何すればいいんだ?
しかし、生徒会の思惑を曲りなりにでもハルヒが考えるとはな。
唯我独尊が服を着て歩いているような、ハルヒの割にはえらく慎重論だ。
・・・こりゃ、明日は季節はずれの雪かもしれん。
次の日だ。
いつもなら目覚めてからも、布団という人類の最高発明に、出来るだけ長いこと包まれようと最後の足掻きをするのだが、今日だけは違う。
確認しなければいけないことがあるからな。
俺は寝ぼけ眼をこすりつつ、窓に近づき、カーテンを一気に開く。
残念ながら、俺のハルヒ予報は外れたようだ。
外は忌々しいまでの快晴だな。
まぁ、普通なら朝起きた瞬間に寒さで雪が降ってるかどうかなんて、丸分かりなんだが、最近はそうもいかん。
何しろ、天然湯たんぽのせいで、布団の中が常に暖かく保たれているからな。
その天然湯たんぽが、外の日差しに当てられて、起きだしてきたらしい。
くぁぁ、と小さな欠伸が聞こえた後、
「おはよう、キョン兄」
「おはよー、キョン君」
と朝の挨拶がステレオでやってきた。
元祖妹と、最近住み着いたパラサイト型宇宙人の2人だ。
ちなみに、俺のことを愛称で呼んでやがるのが妹だ。
・・・色々間違っている。
妹と涼子が仲良くなるまでには壮絶な争いがあったのだが、それはここでは割愛だ。
なんでかは知らんが、妹の中では、キョン>兄という公式らしく、涼子が『兄』を付けることを条件に停戦しているらしい。
俺の中では、兄>キョンなんだがな。
妹の宇宙の広大さすら霞んでしまいそうな途方も無い思考回路に辟易としつつ、むやみに晴れ渡った空の下をちんたらと登校するのだった。
で、放課後だ。
授業風景はいつもと変わらんし、正直何言ってたか、覚えてないしな。
さすがにやばいか?
まぁ、後の問題は後に回すとして、今の問題を考えなけりゃいかんからな。
今の問題の中心地であるSOS団の部室では、ハルヒが昨日にもまして上機嫌で鎮座してやがる。
あいつの機嫌は俺とは反比例してるのかと疑ってしまいそうだぜ。
長門はいつも通り、置物となって本を読んでるし、古泉はパソコン使って何か書き出してやがるな。
朝比奈さんがいないな?
ハルヒが言うには、鶴屋さんが秘密特訓だとかで、借りてったらしい。
決して人数増やすと書きづらいからではないことだけは明記しておきたい。
しかし、あの甘露が飲めないとなると、今日1日を損した気分になるな。
ま、長門が手ずからお茶を入れてくれるとは思えんし、ハルヒなんて考えるだけ無駄だ。
自分で入れた、茶葉は同じなはずなのに味気ないお茶をずるずると飲みながら、この後をどうやって切り抜けるかを考える。
ま、こっちの浅慮な考えなどお構いなしなのが、ハルヒだ。
こっちが逃げの一手を打つ前に、今日の予定を宣告しやがった。
「昨日、私は考えたわ!
どうして、『古キョン☆ステーション』があんなにもつまらないのかっ!?
丁度テレビで漫才やってて、それを見てるうちに理由を閃いたの。
それはキョンが突っ込み、古泉君がボケ、この配置がいけなかったのよっ!
往々にして、ボケは冴えない方がやるものなのっ!!
昨日の配置じゃ、そりゃ実力が発揮できるわけないわっ!!!」
理由って閃くものなのか?という突っ込みはさておき、ハルヒは全国の漫才師のボケ担当に謝りなさい。
・・・いや、俺が誤っておく。
すいません、悪気はありませんので、どうか穏便にお願いします。
まぁ、ボケ云々はともかく、役割を変えるのは悪くないとは思う。
古泉のボケは非常に分かりにくい上、どうも古泉には突っ込みづらいんだよな。
長門が、
「・・・キョン受?」
と呟いたのはスルーしておこう。
情報源はウチのパラサイト宇宙人だろう。
長門が最近毒されている気がするので、注意しなければいかん。
最近は2人でも会ってるらしいからな、これも今回の話とは関係ないから割愛するが。
しかし、急にボケろと言われてもな。
はて、どうすればいいのかなんて全く分からん。
昨日の古泉もアレはアレで困った結果だったのかもしれん。
正直、俺は困り果てている。
俺の芸などは、箸が転んだだけでリアルに笑ってそうな、鶴屋さんを笑わすぐらいのレベルしかないぞ。
そこんとこ、ハルヒは理解してるんだろうか。
まぁ、取りあえずちょっと前にテレビで見たネタでもやってみるか。
パクリとも言うな。
古泉の「なんでやねん」という台詞と、いつものハンサムスマイルが全く噛み合っていないことに恐々としながらも、最後までたどり着くことが出来た。
まぁ、結果は言うまでもないな。
ハルヒの苦虫を噛み潰したようなしかめ面と、一度も顔をあげることのなかった長門の態度が、全てを物語っているといっても過言ではない。
というか、相方とネタ合わせする時間くらいは与えてくれてもいいんじゃないか?
古泉とこれ以上アイコンタクトを交わすのが上手くなっても全く嬉しくない。
どうせなら、朝比奈さんとアイコンタクトを交わしたいものだ。
「予想以上のダメっぷりね・・・。」
ハルヒをして、呟かせるだけで終わるとは昨日の古泉ボケよりもレベルが低いと思われているのか?
「当然よ。
キョンのボケはボケじゃないもの。
台本棒読みされても、面白いと思えるわけないじゃない?」
やれやれと首を振ってから、ハルヒは長門に向き直った。
「有希、手本を見せてあげましょ?」
おいおい、長門にこれ以上変なこと教えんでくれ。
ハルヒは俺を胡乱気な瞳で見つめてから、
「なんで、あんたが有希を自分のものみたいな発言してんのよ?
有希、いい?
キョンが破廉恥なことしそうになったら、すぐに私に電話しなさい。
1秒で駆けつけるわ!
というか、そもそもキョンと2人きりになったらダメよ?」
おいコラ、何言ってやがる。
というか長門よ、頷かんでくれ、軽くへこむぞ。
正直、いくらハルヒでもそんな簡単に漫才などこなせるわけはないと思っていた。
しかし、いざ実際に始まってみると、ハルヒの話し方が異様に上手く、なんでもないお喋りで笑ってしまいそうになる。
それに長門の掛け合いのタイミングが完璧だ。
静と動のコントラストとでも言うか、見ていて爽快な気分になってくる。
くそう、意地でも笑わんぞ。
終わってみると、俺はいかにも笑いを我慢してますといった風に顔を引きつらせているし、古泉は
「さすがは涼宮さんですね、素晴らしいです。」
とか言いながら拍手してやがる。
裏切り者め。
ていうか、本当にお前と長門で出ろ。
この実力なら、普通に生徒会とやらの企みがあったとしても、モノともしないと思うぞ。
「情けないわねー。
キョンっ、それでも男なのっ!?」
男は関係ないと思うんだがな。
が、どうやらこいつが本気で俺たちにやらせる腹づもりなのは確かだな。
・・・仕方ない。
古泉、本気でやるぞ。
という訳だ、ハルヒよ。
俺たちは台本作りから入らせてもらうぜ。
お前と違って、こちとら即興で芸が出来るほど濃い人生送ってきたわけじゃないからな。
「何よそれ?
私だって、別に芸が必要に迫られるような人生なんて送ってないわ。
このぐらい、スピーチの読み方とかの本1,2冊読めば誰だって出来るわよ。
有希だってそのテクニック使ってたじゃない。」
そんなものをあっさり活かせるのはお前だけだ。
むしろハルヒに出来ないことがあるかどうかが疑わしいし、長門にいたっては考えるだけ時間の無駄だ。
とにかく、俺と古泉にはそれは少し難しいんでな。
作戦会議させてもらうぞ。
そう言って、古泉を伴って部室を後にする。
「それでつまらなかったら、キョンをメイド服で舞台にあげるからねー!」
などと冗談では済まされない台詞を吐いている奴がいたが、俺は聞こえなかったふりをした。
というかハルヒよ、俺だけなのか?
古泉と屋上前の階段まで歩いていき、そこで2人で向き合う。
で、どうしてこんなイベントなんだ?
ハルヒの暇つぶしならもっと楽なのにしてくれ。
いくらでもあるだろう?
「確かに、これには困りましたね。
僕は生まれてこの方、漫才なんてやったことはありませんし。」
当たり前だ。
俺だってない。
「おそらく、涼宮さんと貴方を組ませるつもりだったのでしょうね。
ですが、鶴屋さんがあのような行動に出たために、その組み合わせが使えなくなってしまった。
鶴屋さんにも困ったものですね。」
あの人が何の考えもなしにそんな短慮な行動に出るかはしらんが、それよりも、だ。
もしかしたら、どちらにしろ俺は出ることになってたのか?
「ええ、もちろんです。
・・・いえ、もしかしたら、初めからコレは僕と貴方の2人を出す筋書きだったのかもしれませんね。
つまり、こういうことです。
この前あった、阪中さんの犬、ルソーでしたか。
ルソーの奇病の事件を覚えていますか?」
さすがにこんな短期間で忘れるほど俺の脳みそも落ちこぼれちゃいないぞ。
シャミセンも大活躍だったしな。
「ええ、まさしくそれです。
そのときの涼宮さんは、クラスメイトの阪中さんに対して、笑顔を見せていました。
では、教室ではどうだったでしょう?」
そういえば、メアド交換までしてたのに、俺は気づかなかった。
少なくとも、喋ってるところを見たことはないな。
「そこがポイントです。
つまり、涼宮さんは自分からクラスの輪に溶け込むことを良しとしないのでしょう。
去年の4月の自分の態度を簡単に翻したくないのかもしれません。」
球技大会ではキャプテンぽいことをこなしてたし、それなりに笑顔を見せてたりもしたぞ。
「それこそ、涼宮さんの本心の表れでしょう。
スポーツの舞台で無意識に自分が出ていたのでしょう。
涼宮さんの笑顔をああいった場で見られるなどは去年の今頃は、思いもしませんでした。
ですが、貴方が『それなり』と言ったように、SOS団で見せる笑顔と比べると、抑制気味な態度だったのは事実です。
その理由は一体どこにあったのか。
つまりは、去年の自分を簡単には否定出来ないからでしょう。
今の自分と去年の自分との間の葛藤。
そんな中で、理由も無く自分からクラスメイトと接点を作ることが出来ない。
それならば、衆人環視の中でも、自分が笑える環境を作ってやればいいという訳です。
その原因がSOS団であるならば、望むべくも無い、といった所でしょう。
となると、鶴屋さんは初めからそれを見越して・・・?」
まぁ、鶴屋さんだったら、それぐらい見越してても不思議はないな。
あの人は、ハルヒとは違った意味で凄過ぎるからな。
しかし、ハルヒがそんなに殊勝なタマとは思えんが。
「これはあくまで、僕の想像ですからね。
ですが、そう思っていれば、慣れない漫才も、あながち苦にならないとは思いませんか?」
お前はそうかもしれんがな。
俺にとっては全く才能の無いことをするのは、十分すぎる苦行だ。
「僕も漫才の才能があるとは全く思えません。
ですが、SOS団の名前でイベントに参加する以上、涼宮さんの頭の中では最低でもあの文化祭のライブ程度の実力を望んでいるのでしょう。」
それは無理だぞ、はっきり言って。
「ええ、よしんば良いネタを見つけたとしても、一朝一夕で涼宮さんのような人を引き付ける話し方が出来るとは思えません。
それに、朝比奈さんのように自然にボケられる自身もありませんしね。」
朝比奈さんに失礼だぞ、いくら事実でもな。
「すいません、それでは訂正します。
ですが、僕たちが涼宮さんを納得させられるだけの芸が出来ないのは、疑いようの無い事実です。」
そこが問題だな。
大体、ハルヒがでりゃーいいんだ・・・、ん?
ああ、なるほど、その手があるな。
「おや、何か思いつきましたか?」
ずばり、コントSOS団の日常だ。
これなら、いくらでもネタがあるし、それに知ってるヤツの知らない日常ってのは、思った以上に受け入れられやすいからな。
俺がハルヒをやるから、古泉は・・・
「では、貴方を演じさせていただきますよ。
しかし、なるほど。
それならば聴衆の笑いも取れるかもしれません。」
俺かよ・・・まぁ、いい。
後はハルヒに気づかれんよう、当日までは秘密だな。
そんなものをやると分かれば、烈火のごとく怒り狂うだろうしな。
「ええ、ですが、涼宮さんを学校の生徒たちと打ち解けさせるという目的とは外れてしまうのでは?」
大丈夫だろ?
どうせハルヒは笑ってるより、怒ってる比率の方が高いからな。
とことん怒らせてやって、ステージにでも乱入させてやればいい。
等身大のハルヒを見れば、まぁ、今のハルヒだったら話しかけるきっかけぐらいにはなると思うぞ。
「確かに、そうかもしれませんね。
本当に、貴方には涼宮さんの心研究家の名を差し上げたいぐらいです。
では、当日までは適当に理由を付けて、涼宮さんの目を逸らさなければいけませんね。
それは僕にお任せください。」
称号はいらんが、そっちは頼んだぜ、副団長殿。
それから、当日まで、古泉の巧みな話術により、初めて聞いた方が面白いからという理由で、ハルヒの前で練習することは無かった。
ハルヒの相手は長門1人に任せることになっちまったけどな。
長門にはネタバレして、協力するように頼んだから、ま、心配はしなかった。
ああ、漫才大会のことは簡単に結果だけ言うからそれで勘弁してくれ。
なにしろ、俺はハルヒに扮してコントをしたが、これは俺の記憶から消去したいリスト、ベスト3に入るぐらいの恥ずかしさだ。
ハルヒがキレて壇上に上がってきたときは、ようやく終わりだと逆にほっとしたぐらいだ。
ま、そのせいで、大会自体は失格になってしまったが、客は大いにウケていたので、取りあえずのお役目は果たせたと言っていいのだろう。
ちなみに優勝は案の定、鶴屋さんと朝比奈さんのコンビであったが、
「今日は試合に勝って、勝負に負けたさっ!
キョン君、お見事っ!!
アイルビーバーックッにょろっ!!!」
と言い残して朝比奈さんを抱えて表彰式から逃げてしまったので、同好会設立の件もうやむやになってしまった。
全く、鶴屋さんらしいというか、なんて言うか。
ああ、それと蛇足だが、一応言っておく。
後日、阪中を初めとして、クラスの奴らがそのことでハルヒに話しかけて来たときには、こんな思惑通りでいいのか?とも思ったがな。
ハルヒは少し戸惑った後、俺の襟首を掴みながら他の奴らと笑い話をしていた。
それを見たら、小さな疑問なんて吹っ飛んじまった。
俺で良かったらいくらでもネタにしてくれたらいい。
何しろ、ちょっとほっとしてしまったからな。
ま、これで一応大団円ってところか。
ハルヒには絶対秘密だが、長門と朝比奈さんには事の顛末を話してやろう。
古泉にも一応な。
(終わり)