うずくまった俺の目の前には長門と朝倉が立っている。
身体中穴だらけの割に平坦な表情を浮かべる長門。
傷一つなさそうな朝倉はどこか諦感の表情だ。
全く、この2人はどこまでいっても対照的だな。
それはそうと、・・・ここはどこだ?

そこら中ぼろぼろで分かりづらいが、夕暮れの・・・教室か?
ってことは??
すぐに、思い当たる。
クラスメイトに殺されかけるという新聞の一面を飾りそうな出来事だ。
非常識な事件が立て続けに起きたとしても、忘れるわけがない。
もう1年近く前の教室での出来事を夢で見てるのだろう。
えらくはっきりした光景だが、
これが現実でないことが分かってしまうぐらいには俺も成長したってことか。
成長と呼べるのかは知らん。
しかし、夢だと気づくとえらく余裕出てくるもんだ。
この後の朝倉のセリフは確か・・・

「わたしの負け。
でも、統合思念体は一枚岩じゃないのは分かったでしょ。
もしかしたら、長門さんの立場にわたしが居たかもしれない。
わたしの操り主が意見を変えてくれていたら・・・、
面白かったかもね?
それじゃあ、またね」

な!?
そう言って、光の粒子になって消えていく朝倉に呆然とした顔を向ける。
おい、これは夢だろ?
どうして、俺の記憶と違う言葉を朝倉が喋るんだ!?

「ちょ、ちょっと待てっ!!?」

慌てて飛び起きた!
俺の部屋だ。
いつもと違う点は何もないはず。
風もないはずの室内で、腰まである長い髪をなびかせている女の姿を除いてはな。
とりあえず、これだけは言わせてくれ。
・・・やれやれ。


涼宮ハルヒの憂鬱SS 涼子ちゃんLITE! 前編


「おはよう。イイ夢見られたかしら?」
おいおい。
お前はもう退場したんじゃなかったのか。
「こっちを見てくれてもいいんじゃない?」
やなこった。
と言いたいところだがな。
そいつは、一分の隙も見あたらない完璧な笑顔を浮かべてやがった。
くそう、太い眉の分際でっ!?
びゅっ!と頬をかすめて何かが通り過ぎていく。
後ろを振り返ると、俺の枕に深々とサバイバルナイフが突き刺さっている。
・・・おいおい。

「何か言った?」
いえ?何も言ってませんよ?
オヒサシブリですね?

「そう?私の感覚だとほんの数日って所なんだけどね?
実際は、半年以上経ってるみたいね。」
そう言ってくすくすと笑う。
・・・ナイフはスルーか
まぁ、いい。
そんなことよりもっと聞きたいことがあるからな。

「どうしてお前がここにいる。」
さすがに声が上擦るのは仕方がない。
12月のあの消失事件にも見た顔だが、あのときとは違った。
俺の脳裏に焼き付いたままのうっすらとした笑みを浮かべた、
朝倉涼子が、ここにいた。


「どうして?
そうね、あの消失事件が理由かしらね。
長門さんは変わった。
私たちはその変化こそが、自律進化の一歩目ではないか、
そう考えたの。
そして、その鍵はあなた。
当然よね?
長門さんと最も接して来たのはあなたをおいて他にないんだもの。
だけど、主流派は涼宮さんが鍵だと思ってる。
だからこそ、変化を気にしない。
あなたを、重要視してない。
しかし、私たちは先の失敗から涼宮さんに近づくことは難しい。
別の方向から自律進化の可能性を模索しなければならない。
そして、あなたの重要性を認識した。
まぁ、そんなわけで長門さんのバックアップであったものの、
現在は使われていなかった対有機生命体用インターフェース、
つまり私があなたを監視対象とすることになったわけ。」

えらく饒舌だな、古泉じゃあるまいし喋りすぎだ。
話が長すぎて訳分からん。
簡潔に2行ぐらいにまとめてくれ。
って、ちょっと待て。
そんな理由よりも、だ。
お前は消滅したはずだろう?

「久しぶりに喋ってるせいかしらね?
勝手が分からないのよ。
もしかしたら、興奮しているのかも。」

そう言ってくすくすと笑う朝倉。
くそう、1つ1つのポーズがなんて絵になるヤツだ。
が、まだ質問に答えてもらってねぇぞ。

「簡単に言うと・・・、そうね。
私があなたと暮らすことで、
私の自律進化が促される兆候がないか調査する、ってところかしらね。」

それはえらく簡単だな。
で、消滅したはずのお前がいる理由は?

「それも簡単。
完全には消滅してなかったから。
あのとき、全情報の70%程を捨ててとかげの尻尾切りで脱出。
辛くも情報結合の解除からは免れてたってわけ。
長門さんも気づいていたでしょうけど、
さすがに追ってくるだけの余力は残ってなかった。」

まぁ、それもありうるかもな。
アホの谷口が教室に入ってくることにも、
あの長門が気づかなかったぐらいだからな。

「最も、ダメージ自体は大きかったし、
完全回復にはまだまだ時間が掛かりそうね。
それでも、急進派のバックアップがあるから、
長門さんにも気づかれずに監視することが出来るはずよ。」

やれやれ。
理解なんてしたくもなかったな。
こういうトンデモ話は団活動中だけにしてほしいんだが。
まぁ、それは良いとして・・・全然良くないけどな。
一つだけ聞いておく。
「何かしら?」
俺に拒否権はあるのか?
「もちろんあるわよ?
認めないけど。」
それはあるって言わん。
もう好きにしてくれ、俺は寝る。

「もう少しだけ付き合ってほしいんだけど。」
もういいだろう?
監視でもなんでも好きにしてくれたらいい。
明日はSOS団の恒例行事こと、
不思議探索ツアーが控えてるんでな、寝ないとヤバイ。
「そう?
じゃあ始めさせてもらうわね。」

そう言って、呪文を唱え始める朝倉。
おいおい、もしかして選択肢間違えたか?
どうしてインチキ技を使ってやがる。
そんなことをしている間に詠唱が終わったようだ。
おーい、朝倉。
なにしやがったんだ?

「大したコトじゃないわ。
ただ、私をこの家の家族にしただけだから。
監視対象に監視の事実を明かすくらいだもの。
監視対象を常に見える位置におくのは当然よね。」

・・・なんだと?
って、朝倉さん。
何か縮んでませんか?

「ああ、コレ?
言ったでしょ。
まだ完全回復してないって。
情報結合に対する干渉が甘いのよ。
その上、力なんて使ったから、今の力量に見合ったサイズになっちゃったみたいね。
まぁ、些事だし、このままでもいいわね。」

些事って言うがな、ちなみに現在の朝倉は小学校低学年程度の体型だ。
それでも、今年小学校6年となる我が妹と同じぐらいか。
・・・妹よ、ちゃんと成長しろよー。
まぁ、考えようによっては朝倉が小さくなった方が、
色々ごまかしが効いていいかもしれん。
カナダに転校したはずの朝倉がそのまま俺ん家にいるとなれば、
大騒ぎになること請け合いだからな。
特に谷口とか、ハルヒとか、ハルヒとかな。

「設定はあなたの年下の従姉妹ってことになってるから。
家庭の事情でこの家に一人でやってきたの。
名前はそのまま、『朝倉涼子』。
変えるのも意味ないでしょ?」

そこまで言ってから、
アホみたいにニッコリと笑顔を浮かべて、

「よろしくね、キョン兄!」

などとのたまいやがった。
どうせなら、お兄ちゃんと呼んでくれ。

ちなみに、朝倉のハルヒなみの極上笑顔に少しときめいたことは秘密だ。
ていうか、いつの間にか朝倉がこの家で暮らすことが決定してるみたいだな。
消極的否定ってやつはどうやらこいつにも通用しないらしい。
誰かに丸投げしたい気分は破裂寸前だが、
これも俺がやらなければいけないことなのかもしれない。
朝倉のためになる、ってことは最終的に長門にも同じコトが言えるからな。
あいつのためになるなる可能性があるなら、このぐらいはしてやれるだろう?

「ふぅん?そうなんだ。」
・・・なんだよ。
「別に?」
くそう、見抜かれてやがるか。
まあ、いいさ。
ちょっとはこの生活にも期待を持ち始めたところだしな。


次の日だ。
付いてこい!

「キョン君、あさぁー!」
アホの子みたいに声を張り上げて部屋に吶喊してきたのは・・・、
まぁ、言わなくても分かるだろ?

「あーっ!りょーこちゃん!!
キョン君と一緒に寝たのー!?
ずるーいっ!
キョンくーんっ!今日はわたしとー!」
えらくビックリマークが多いが、それが妹の仕様だ。
勘弁してくれ。

ていうか、どうして朝倉が俺のベッドにいるんだ?
あいつは昨日、敷地一杯に建っている我が家を圧死させるつもりなのか、
謎の宇宙人パワーで新しい部屋まで増築したというのに、使わんのか?
おい、こら。
起きろー。朝倉ー。
ちなみにやけに落ち着いてるな?っていう質問についてはこう答えておこう。
・・・内心、めちゃくちゃ動揺してるぜ?

まぁ、そんなことよりも、だ。
「・・・それ無理。・・・死ねばいいのよ・・・苦しんで・・・むにゃ」
この寝言をどうにかしてくれ。
こいつは生粋の殺し屋か?
なんかにやにやしてやがるしな。
・・・色々早まったかもしれん。

「ねー、キョン君?
今日ってハルにゃん達と遊ぶっていってなかったー?
もう10時廻ってるよー。
私も連れてってー?」
最後の一言はスルーするとしてもだ。
約束は11時だったな。
団長殿の髪が怒りで天を突く前に到着しなけりゃいけないんだがな。
駅前まで掛かる時間を逆算すると・・・、
くそ、ぎりぎり間に合っちまう。
どうせなら、とことん間に合わない時間に起こしてくれれば、諦めもつくんだがな。

取り敢えず妹を問答無用で部屋から追い出す。
その際のやり取りに反応したのか、
「お早う、キョン兄。夕べは遅かったんだし、もう少し寝てたいんだけど・・・?」
朝倉がもぞもぞと起き出してきた。
眠いなら、寝てろ。
むしろ起きるな。
俺は決まり切った日常とはいえ、
たまには古泉にでも奢らせてやりたいとおもっちまうんだよ。
って、こんなこと喋ってる場合でもないな。

とにかく、俺は待ち合わせ場所にさっさと行かにゃいかん。
悪いが、家で待っていてくれ。
「うん、それ無理」
いけしゃあしゃあと何言ってやがる。
大体、ハルヒはともかく長門にバレやしないのか?
「言ったでしょ?長門さんにもバレないって。」
で、俺に子連れで行けってか?
朝倉よ、ハルヒになんて説明しろって言うんだ?
「それは私に任せてもらっていいわ。
それよりも、従姉妹って設定なんだから、『朝倉』じゃダメでしょ?
私がどんなに完璧にしても無意味よ。
『涼子』でいいわね?」
・・・そいつは光栄だな。
取り敢えず、急いで準備しろ。

あっ、と言う間に準備を済まし、ママチャリに飛び乗る。
ちらりとこのまま涼子を置いていこうかと考えたが、
俺が乗ったと同時に後ろからしがみついてきやがった。
「ふふっ、何考えてたの?」
何でもないぞ?
しかし、しがみつかれても全く面白くない体型だな。
「そう?
わたしは有機生命体の性の概念も良く理解してないのよね。
少し情報結合を修正した方がいいかしら?」
その体型で性とか言うな。
微妙に憂鬱な気分になりながら、
遅れた言い訳を考えつつも自転車をこぎ出し始めたのだった。

って、こんな中途半端なところで続くのか?
(続く)